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「取り締まるだけでなく、チームを乗せていく…」明大ラグビー部の“学生レフリー”が担う勝利への役割《ラグビー早明戦100回記念》
posted2024/11/22 15:00
text by
大友信彦Nobuhiko Otomo
photograph by
Kiichi Matsumoto
大学ラグビー部に近年じわじわと増えているのが「学生レフリー」という存在だ。今年3月まで早稲田大学の学生だった古瀬健樹は、リーグワンで昨季と一昨季の2年続けてベストホイッスル賞を受賞。古瀬の2学年上には、今季の国際セブンズシリーズ下部大会「HSBC SEVENS CHALLENGER 2025」で女子のレフリーとして世界から選ばれた9人のひとり、池田韻(ひびき)が在籍していた。
現在、明治大学ラグビー部には現役学生レフリーが2人いる。そのうち、すでに大学生やシニアの公式戦を担当できる「B級」の資格を得ているのが、3年生の後藤剛志だ。彼はどんな経緯でレフリーの道に入り、チームでどんな役目を果たしているのだろうか。
後藤は京都府出身。幼稚園年長組のときから京都西ラグビースクールに通い始め、高校は「ラグビー部が強くて勉強もできる、そして寮があるところを探して」茨城県つくば市にある茗渓学園に巡り会った。茗渓学園は中高一貫教育の私立進学校で、1988年度には花園(全国大会)で優勝している。
後藤は2年生までSHでプレーし3年生のときSOに移ったが、最後の花園ではメンバー入りできなかった。同期のSHには現在筑波大で活躍する高橋佑太朗、SOには早大のCTBで活躍する黒川和音という高校日本代表候補の強敵がいて、ファーストジャージーは遠かったのだ。
選手としての実力は自覚していた。だけど、ラグビーは続けたかった。
「ラグビーというスポーツが好きなんです。かけがえのない仲間に出会えたし、大学に行ってもずっと関わりたいと思っていました」
ラグビーが強い大学でサークルで楽しくやる選択肢もある。そこまで強くない大学なら、体育会でレギュラーを狙えるかも……いろいろと悩んでいた頃、テレビで見た明治のラグビーに惹きつけられた。飯沼蓮主将(現・浦安D−Rocks)のもと、早明戦には敗れたものの大学選手権の準々決勝で雪辱を果たし、準決勝ではリーグ戦グループ王者の東海大を破った戦いが輝いて見えた。
ホームページを調べると、明大ラグビー部は学生スタッフを募集していた。募集されていた役割はマネージャー、学生S&Cコーチ、学生アナリスト、学生トレーナーの4つ。後藤は「S&Cコーチ」に興味を持った。
S&Cとは「ストレングス&コンディショニング」の略。筋力を強化し、最大限のパフォーマンスとして発揮させるためのトレーニングの総称だ。使用する機器も従来のダンベル、バーベルなどのウエート系だけでなく、GPSを活用してランニングのスピード、加速度、持続時間など多岐にわたるデータを収集し、選手のトレーニング総量、負荷の管理など、パフォーマンス全般の能力向上を図る。
明大ラグビー部のS&Cコーチは、プロのS&Cコーチをサポートするかたちでトレーニングの成果を記録し、選手に感想を聞いたりアドバイスをしたりするという。
「選手に近いところでラグビーに関われる、と思いました」と後藤は言う。プロのコーチと一緒に仕事ができる。しかも明治というカッコイイ、頂点を目指すチームに加われるなら最高じゃないか……。
S&Cコーチからアナリスト、そしてレフリーへ
後藤は明大進学を決意し、合格を勝ち取った。しかし、いざ入学してみると、憧れた「S&Cコーチ」は募集がなく、求められていたのはアナリストだった。だが後藤にこだわりはなかった。もともと相手チームの癖やラインアウトの組み立てを観察することが好きで、アナリストは向いていると考えたからだ。
2022年、後藤はアナリストとして明大ラグビー部の一員となった。対戦相手の試合映像をPCに取り込み、多岐にわたるデータを収集するのだ。
「1試合の分析作業はだいたい1〜2時間くらいですね。分析ソフトである程度の数字は出ているので、そんなにはかかりません。ただ、その時間はめちゃくちゃ集中します(笑)」
練習を撮影する作業や、個々の選手がどんな反則を犯しやすいか傾向を調べる仕事もあった。そうしているうちに、同じスタッフでも違う部門の仕事が気になってきた。後藤が1年のときの3年生に、不京大也という学生レフリーの先輩がいた。
「不京さんの姿がカッコ良かったんです、練習でビシバシ笛を吹いて仕切って(笑)。そういえば、高校のとき選抜大会で吹いてくれたのが明大の学生レフリーだった松下(忠樹)さんで『カッコイイなあ』と思ったこともあったんです」