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「この試合に価値はない」カナダ戦を一刀両断したトルシエが、それでも気にした「違いを作り出せる」選手とは?《W杯日本代表を斬る》
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2022/11/19 06:00
試合には敗れたものの、前半8分の相馬の先制点は背後からの浮き球に合わせた見事なゴールだった
——しかし久保は、力をまったく発揮できませんでした。
トルシエ だが久保が興味深い選手であることに変わりはない。彼はスペインの経験を経て成熟した。テクニックに秀で個の力で違いを作り出せる。
——ただ今日は少し孤立していませんでしたか?
トルシエ この試合を綿密に分析しても意味はない。突き詰める必要のない試合だ。選手にプレーの時間を与えたという以外は。それだけだ。
他には……山根(視来)が最後に大きなミスを犯した。あんなプレーをするとは信じられないが、それはそれで良かった。なぜあのミスを犯したかを、これから分析すればいいのだから。大会の前にこうしたミスが明らかになるのは悪いことではない。
それからカナダはセットプレーで危険だった。十分に注意を払わねばならないことがわかった。だが私は試合を詳しく分析する気はない。その必要のない試合であるからだ。
今日の日本はベストチームではない。森保が留意したのは、多くの選手にプレーの時間を与えることだった。そのうえでそれぞれのパフォーマンスに注目した。南野もそのひとりだが、出来は悪かった。決して調子は上がっていない。
理解し難いリスクの選択
——柴崎(岳)の出来も良くなかったのでは?
トルシエ 理解できないのは、吉田(麻也)を最後の5分に投入したことだ。
——同点のまま試合を終えたいと思ったのでしょうが……。
トルシエ しかし危険だ。誰かが怪我をする危険性を考慮しないのか。
——森保監督は3・4・3システムを、試合を終えるためのものと考えています。それで吉田を入れましたが、今日はうまくいきませんでした。
トルシエ 森保が勝ちたくなかったわけではないだろう。負けたくなかったのも間違いないが、ただ勝ちにいったわけでも何かを変えたかったのでもないだろう。吉田が加わることで生じる変化を、彼は見たかったのだろう。