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「この試合に価値はない」カナダ戦を一刀両断したトルシエが、それでも気にした「違いを作り出せる」選手とは?《W杯日本代表を斬る》

posted2022/11/19 06:00

 
「この試合に価値はない」カナダ戦を一刀両断したトルシエが、それでも気にした「違いを作り出せる」選手とは?《W杯日本代表を斬る》<Number Web> photograph by Getty Images

試合には敗れたものの、前半8分の相馬の先制点は背後からの浮き球に合わせた見事なゴールだった

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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 フィリップ・トルシエは、日本代表監督のポストから離れて20年が過ぎた今も、その時々の日本代表を見つめている。自身以来2人目となるA代表・五輪代表監督を兼任した森保一に関しても、彼が代表監督に就任した当初から注目し、2018年ジャカルタ・アジア大会(サッカーはU21代表が参加、準優勝)や翌年のUAEでのアジアカップ(同じく準優勝)、2021年の東京五輪(4位)、FIFAW杯アジア最終予選などをリアルタイムでフォローしながら動向を追い続けてきた。その忌憚なき意見と奥深い批評は、当欄でも随時紹介してきた。

 20日から始まるW杯カタール大会についても、トルシエはその洞察力を持って観察する。大会開始前から決勝まで、トルシエは日本代表と世界のサッカーにどんな思いを寄せ、サッカーからどんな可能性をくみ取ろうとしているのか。トルシエの視点を通して見る世界は、日本から外部としての世界を眺めるのとは当然ながら異なる。その意味からも、彼の言葉に耳を傾けるのは決して無駄ではない。

 シリーズの第1回は、W杯直前に唯一組まれた親善試合、日本対カナダ戦のトルシエの分析である。森保監督が試合前日会見で具体的な選手起用を明かし、いわゆるサブ組と怪我や体調不良からの復帰組が先発出場を果たしたカナダ戦(11月17日、ドバイ。1対2で日本の敗北)を、トルシエはどう見たのか。

試合から見えたドイツ戦のスタメン

——日本はアディショナルタイムに入ってからPKを決められてカナダに敗れました。

トルシエ あの得点は私も見た。

——1対2の敗北となりましたが、森保監督は負傷明けや調子を落としている選手に出場の機会を与えました。もちろん戦術の面でも自分たちのプレーの構築を試みましたが、あなたはどんな印象を受けましたか?

トルシエ ドイツ戦に向けての準備の試合というのが私の印象だ。ネガティブな結果には常にうんざりだが、私が見る限りこれは準備のための試合に過ぎなかった。森保は多くの選手を温存した。ドイツ戦ではスタメンに名を連ねるであろう選手たちだ。それが私の最初の印象であり、試合を通してドイツ戦に誰がスタメンとして出場するのかがわかった。

 森保は、カナダ戦を利用してすべての選手たちにプレーの時間を与えた。その結果、久保(建英)と堂安(律)ではどちらを選ぶのか、具体的な答えを得ただろうし、南野(拓実)にもプレーの時間を与えたが、彼の出来は決して良くはなく、調子が戻っていないことが明らかになった。

 つまりこの試合は、ドイツ戦に向けての準備という意味でのみ価値のある試合だった。チームは成熟を欠き、技術的なミスも連発した。規律は保っていたとはいえ、ボールをうまくコントロールできないうえにオートマティズムも欠いた。日本が勝てなかったのは当然の結果で、この試合に関しては、カナダの方が日本よりも成熟しており強かった。

 この試合には他に何の価値もない。日本は真のチームを隠し、スタメン以外の選手たちにプレーの時間を与えた。様々な分析はできるがそこに意味はなく、森保は仕事を遂行し続けて選手にプレーの機会を与えた。彼が久保を起用したのは、彼が浅野(拓磨)とともに試合を始める選手(スタメンとして起用できるの意)であるからだ。

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