プロ野球亭日乗BACK NUMBER
村上宗隆が、”確信バット投げ”を辞めたのは”あの死球”から? 60本&三冠王に向けて必要な「打席で1本の線を引く」技術とは…
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/09/18 11:04
王貞治に並ぶ55本塁打を放っているヤクルト村上。プロ野球記録の60本超えも現実的になってきた
ただ、その一方でこれからも村上に対する内角攻めは、さらに厳しいものとなっていくのは確実だということだ。
「当てるつもりで投げることはないけど、当たったら仕方ないと思って厳しく内角にいくことはある」
プロ野球で実績を残したある投手OBの言葉だ。
「打席に入ったら、必ず1本の線を引く」
好打者を抑えるためには、インコースの厳しいゾーンは投手にとっての絶対領域となる。さらにいい投手ほど制球に自信があるから厳しく攻められるし、それができるかどうかが、この世界で投手が生き残っていくための条件でもある。ましてや村上のような規格外の打者と大事な場面で対戦するときには、それこそ「当たったら仕方ない」くらいの気持ちでインコースを突いてくる投手が出てくるのも仕方ないところなのである。
そういう厳しい内角攻めをかい潜って、結果を残すことが、今年だけではなく将来に向けて村上の大きなテーマになるはずなのである。
「打席に入ったら、必ず1本の線を引く」
この話を初めて聞いたのは長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督だった。ただ、その後にはソフトバンク・王貞治球団会長や落合博満中日監督、元ニューヨーク・ヤンキースの松井秀喜さんなど名だたる強打者たちから、同じ言葉を聞いた。
「投手のリリースポイントから自分の頭に線を引いて、投手の手からボールが放たれた瞬間に、その線に乗ったら避ける。インハイは一番時間がないから、そうしないと間に合わない」
長嶋監督の説明だった。
「自衛策を講じてないと、選手生命にかかわる」
「ある程度、厳しく内角を攻めるのは仕方ないし、我々だって避ける準備は常にしている。ただ昔はね、平気で頭にきましたから。それぐらいの自衛策を講じてないと、それこそ選手生命に関わる大事になってしまう」
エスコバーが村上にぶつけたのは太ももだった。だからこそ、激しく非難するヤクルトベンチからの野次に、DeNAベンチからは「足やろ」という声が飛んだわけだ。ただ単純にインコースというだけではなく、それこそ胸元を抉らないと、村上のような打者は抑えることができなくなっていく。