プロ野球亭日乗BACK NUMBER
村上宗隆が、”確信バット投げ”を辞めたのは”あの死球”から? 60本&三冠王に向けて必要な「打席で1本の線を引く」技術とは…
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/09/18 11:04
王貞治に並ぶ55本塁打を放っているヤクルト村上。プロ野球記録の60本超えも現実的になってきた
マウンドの久保拓眞投手は執拗な内角攻めを行い、3球目が佐野のベルト付近を抉った。この投球に佐野が打席を外すと、両軍ベンチでまた激しいヤジの応酬が繰り広げられたのである。“報復”を意識した佐野が、次の投球でも逃げるように打席を外す(投球はインコースのストライクだった)と、さらに激しい声が三塁側のヤクルトベンチから飛んだ。
「当ててもいいんやろ!」
この声にDeNAベンチがすかさず「黙れや!」と反応するなど応酬して、佐野がなかなか打席に入れないほどのヤジ合戦が続いたのである。
後日、「当ててもいいんやろ」と野次を飛ばしたと言われたヤクルト・森岡良介内野守備走塁コーチは、自身のインスタグラムで「この度僕が口にした言葉に対して不快な思いをさせてしまい、そして落胆させてしまい大変申し訳ありませんでした」と謝罪する騒動にまで発展してしまった。
村上への死球は”故意”だったのか?
発端となったエスコバーの村上への死球が、故意なのかどうかは分からない。ただ、村上本人だけでなく、ヤクルトベンチがこの死球を“故意”と解釈していたのは伏線があった。
約2週間前、8月28日の同じカードだ。
4対4の同点で迎えた7回、マウンドに上がったエスコバーから村上が決勝の49号本塁打を右翼席にぶち込んでいる。打った瞬間に本塁打を確信した村上は、かがみ込んで打球の行方を確認した上で小さく手を叩きながら走り出した。それほど派手なジェスチャーでもなかったし、打たれた投手への挑発行為のようには見えなかったが、淡々と走り出したわけでもないのも確かだ。
一方その瞬間、エスコバーはロジンバッグを叩きつけて悔しがっていたが、村上のこの動作は見ていなかったようにも見えた。それでも打たれた投球をビデオで確認したときに、この村上の動きを「侮辱的」と思った可能性もなくはない。
いずれにしても一つ言えるのは、大差でリードした終盤の打席で、投手はそんなに厳しくインコースを攻めなければならない場面ではなかったということだ。だからこそ村上はマウンドを睨み、ヤクルトベンチも同じことを感じたのだろう。