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「グラウンドで亡くなることもいとわない」選手権6度優勝、帝京元監督・古沼貞雄83歳が今も出張指導を続ける理由「どうしようもなくサッカーが好きなんです」
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byYuki Suenaga
posted2022/09/03 17:00
最近の毎朝の楽しみは「大谷の活躍」。野球やバスケも熱心にテレビで観戦し、何かを学ぼうとする姿勢に変わりはない
「この爺さんはいったい何者なんだ」と思ったかもしれません
スタジアムでのJ1優勝報告会を控えた川崎フロンターレの谷口彰悟である。高校生たちは、突然の来訪者にあっけに取られていたという。
「矢板中央の選手たちには話していなかったからね。『この爺さんはいったい何者なんだ』と思ったのかもしれません。大津高校で谷口も1年生のときから見ていました。いまも昔も“ダイレクト”の練習ばかりしているので、あんなことを冗談まじりに言ったのかな」
古沼さんは帝京時代にバスケットボール、ハンドボールなどからヒントを得て、テンポよくダイレクトパス(ワンタッチパス)をつないで崩し、シュートまで持っていく形にこだわってきた。昭和20年代、江戸川区の中学校に通っていた頃、同級生に男子バスケットボール日本代表選手の妹がいたこともあり、70年前からバスケットボールは熱心に観戦してきた。今夏のインターハイ決勝もライブ映像でチェックしたほどだ。
「ボールゲームには共通するものがありますから」
「古沼さんが行くところは、どこも優勝」
どの高校に赴いても、指導法の根本は変わらない。トレーニング時間の7割はシュート練習に割くやり方も同じだ。特別なことを教えているわけではないという。ただ、帝京高校を定年退職で離れたあとも引く手あまただった。
すぐに声がかかったのは、育成の名門として知られる東京ヴェルディの下部組織。2005年にアドバイザーに就任すると、同年には日本クラブユース選手権、高円宮杯全日本ユース選手権で2冠を達成。その2年後には流通経済大柏でもアドバイザーとして高円宮杯全日本ユース選手権、全国高校選手権の2冠獲得に貢献した。
2008年1月14日、晴れ晴れとした気持ちで高校サッカーの「聖地」国立競技場で表彰式を済ませ、車で首都高速道路を走っているときだ。両国付近で携帯電話が鳴った。全国高校選手権の決勝を前半だけ会場で観戦していた“ある監督”からだった。急ぎ羽田空港から鹿児島空港に降り立ち、指宿の合宿に向かう車中から電話をかけてきたという。
「おめでとうございます。古沼さんが行くところは、どこも優勝しますね。いったい、どんな練習をしているのですか。今度、教えてくださいよ」