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「チームの真のリーダーは私」トルシエが語る02年日韓W杯の真実と22年日本代表の成熟「私の意図は理解されなかった」 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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posted2022/08/03 11:02

「チームの真のリーダーは私」トルシエが語る02年日韓W杯の真実と22年日本代表の成熟「私の意図は理解されなかった」<Number Web> photograph by Gatty Images

トルシエが率いた2002年の日本代表を中心選手として牽引した中田英寿。チームをベスト16に導いた

あんなに簡単にボールを与えるべきではない

「その通りで、昨日のブラジルは70%(実際には52.2%)ボールを支配した。日本がさらに幾度かボールを保持していれば、50%になっていただろう。つまりブラジルにボールを委ねるべきではなかった。彼らがボールを持てば、間違いなく危険な攻撃を繰り出してくるからだ。極端なことを言えば、昨日の日本はブラジルに30回は簡単にボールを渡した。明日、その回数を10回に減らせれば、減った20回分で相手を走らせることができる。日本はそれだけ守備にかかる負担を減らせるうえに、ブラジルの選手たちを動かして疲れさせられる。だが、日本はあまりに簡単にボールを失い、ブラジルはあまりに簡単にボールを奪うことができた。あんなに簡単に相手にボールを与えるべきではない。そこを改善していくべきだ」

――フラット3(トルシエの代名詞ともいえるコンパクトなブロックのラインディフェンス)は日本のようなチームが、自分たちよりも強い相手と戦うときにとても効果的なシステムでしたが、今日でも実践的なのでしょうか?

「フラット3はラインのディフェンスであり、目的はボールの動きに対応することだ。人の動きに対してではない。私のW杯チームのスタメンを見たとき、守備のプロパーはふたりしかいなかった。松田と中田浩二だ。当時、宮本はクラブでは中盤でプレーしていた。左サイドの小野はフェイエノールトでは10番の役割だったし、右の明神もMFだ。中盤は稲本と戸田、中田英寿の3人だ。つまり本物のディフェンダーは中田浩二と松田のふたりだけだった。小野は本職の左サイドではなかった。明神も本職の右サイドではなかった。

 フラット3は組織的な守備で、相手の縦の攻撃(プロフォンダー)を断ち切る剃刀だった。後方からボールが送られてくるとラインを上げる。システムは相手のポジションに応じて動いていた。相手フォワードを置き去りにし、動きを遅らせることを目的としていた。相手が攻撃を続けるためには、改めてポジションを取らねばならないことをそれは意味していた。

 コンセプトの基本はボールの位置だった。そのコンセプトを理解するにはトレーニングが必要で、自然に身につくものではない。4年間のトレーニングで身についたものだ。

 今日は状況が異なる。FIFAが定めた国際マッチデーだけでは時間が足りず、実現するのは難しい。私には年に100日ほどのトレーニングの時間があった。ほぼすべての選手が国内でプレーしていたからだ。だからシステムも方法も今とは違う。

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