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「ずっとヘルニアに苦しんでいました」サニブラウン23歳が明かしていた、絶不調だった東京五輪の“その後”《世界陸上100m日本初ファイナリスト》 

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涌井健策(Number編集部)

涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2022/07/17 17:00

「ずっとヘルニアに苦しんでいました」サニブラウン23歳が明かしていた、絶不調だった東京五輪の“その後”《世界陸上100m日本初ファイナリスト》<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

オレゴン世界陸上で男子100m日本人初の決勝進出を果たした、サニブラウン・アブデルハキーム(23歳)

「よく10秒の壁って言うじゃないですか? たしかに9秒になると1桁になるので、数字的には壁っぽく思えるんですけど、自分としてはそうじゃないと思っていて。周りが騒ぎすぎというか……。真の壁って、9秒90じゃないですか? なんちゃって9秒台の選手ってけっこういるんですけど、いまの世界ランキングを見てもあまり9秒8台の選手はいないし(6月15日時点で、世界陸連のHPではクリスチャン・コールマンらの9秒76を筆頭に12人)、歴代でみても限られていますよね。そのタイムを持っている選手にはまだ勝てないと思います。ただ、9秒95くらいまではケガをせずに走れれば、いつでもポンっと出るな、という感覚がありますね」

 山縣亮太の持つ日本記録も「ポンっと出る」と言ってしまうが、それがビッグマウスに聞こえないのには理由がある。サニブラウンは、確固たる経験と信念を持った上で話をしているようなのだ。

「日本の大学や実業団は恵まれた環境が与えられている」

 2020年夏から彼が所属するのが、アメリカ・フロリダ州に本拠地を置くタンブルウィードTC。かつてサニブラウンが師事したレイナ・レイダー氏が率いるチームで、東京五輪で100m銅、200mで金メダルに輝いたアンドレ・ドグラス(カナダ)、昨季9秒76をマークしたトレイボン・ブロメル(米国)らが所属している。日々の練習から「9秒8」以上の速さと動きを、すぐ横で見て、肌で感じているのだ。

「スタートのタイムもそうですし、全身に測定器をつけて走ってもタイムが違いますから。でも、そういった数字というより、大きな舞台だけではなくて、普段の練習の1本1本から自分の持っている力を出していけるのがすごいなって」

 それはオリンピックや世界陸上などの大舞台で結果を残すためには、大きな舞台にコンディションをあわせて一発の結果を出すのではなく、日常の練習から100%に近いパワーを出して走って、スプリンターとしての地力をあげ、いつでも大舞台に臨める状態を作っていく、ということだろう。

「日本の大学や実業団はすべての面において恵まれた環境が与えられて、みんなの力で日本選手権など大きなレースを狙っていきますけど、与えられているだけじゃ成長できないと思うし、面白くないじゃないですか。世界のトップ選手はダイヤモンドリーグなどで国内外を転戦しながらまさに自分の力で結果を残して、欲しいものを手に入れています。うちのチームでも、みんなで同じ練習メニューをやることは少なくて、仲は良いけど個人個人が自立している感じです。今回の僕の日本選手権もそうですけど、コーチが同行できない試合もあり、トレーナーも普段とは違う人にお願いすることもある。とにかく、自分自身をマネジメントすることが求められますね」

なぜ大学を休学したのか?「みんなでボウリングにはいきますね」

 サニブラウンは、2020年夏に通っていたフロリダ大学を休学することを選択。その上で、タンブルウィードTCに所属している。前年の2019年は全米学生選手権で9秒97の日本新記録を樹立し、日本選手権は100mと200mを制覇、ドーハで行われた世界選手権でも100mで準決勝進出、4×100mリレーでは銅メダル獲得と、目覚ましい結果を出していただけに練習環境を変えることは意外にも思えた。だが、それにはアメリカで周囲にいたプロ選手の行動が影響していたという。

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