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「ずっとヘルニアに苦しんでいました」サニブラウン23歳が明かしていた、絶不調だった東京五輪の“その後”《世界陸上100m日本初ファイナリスト》 

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涌井健策(Number編集部)

涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2022/07/17 17:00

「ずっとヘルニアに苦しんでいました」サニブラウン23歳が明かしていた、絶不調だった東京五輪の“その後”《世界陸上100m日本初ファイナリスト》<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

オレゴン世界陸上で男子100m日本人初の決勝進出を果たした、サニブラウン・アブデルハキーム(23歳)

 だが、今回の日本選手権を前にした会見で、昨年は腰のヘルニアに苦しんでいたことを明かした。ヘルニアは、下手をすると日常生活すら困難になり、治療も一筋縄ではいかない故障だ。選手としては一生に一度の母国開催のオリンピック、そこで全力で走れなかったことで、さぞや悔しさを募らせ、落ち込んだ時期もあったのでは、と尋ねると、これもまた予想を裏切る飄々とした答えが返ってきた。

「いやー、そうでもないっす。焦ったり、落ち込んだりしたからといって早く治るわけじゃないし、自分としてはオリンピックで走るために、できることは全部やった結果だったので。ヘルニアになってからはケアの時間を増やしましたし、メニューの組み立て方を全部変えましたし、走るときに意識する体の部位、ウエイトトレーニングの種類も違うものにしました。やることは全部やれたので、後悔とかはないんです。とにかくサポートしてくれている人たちに自分の走る姿を見せたかったので」

 オリンピック後もヘルニアには苦しみ、気持ちよく走れるようになったのは、2022年の年明けからだという。

「ヘルニアでそれまで積み上げてきたものは一回リセットされているので、もう一回(走りを)作り直している感じです。故障があっても走っているのは、自分がどこまでいけるかが楽しみだから。まだまだ成長できる部分は多いし、自分に足りないものもわかっている。だから楽しみで、でも安心はできないって感じです。不安? いや、アスリートとして安心できないというのは、不安とは違う……説明するのが、難しいんですけど」

 想像すると、(間違っているかもしれないが)「楽しみ」は生来の楽天的な気質からくるところ、「安心できない」はアメリカで身をもって実感しているプロの厳しさ、といったところだろうか。

 インタビューの最後、「カレー食べておなかいっぱいになったから少し眠くなってきました」と苦笑いをしながら、アスリートの本質を突くような言葉を残してくれた。

「いろいろと話しましたけど、自分が自分を信じなきゃ、誰が信じるんだってことですね」

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