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殴る、殴る、ひたすら殴る… 伝説のドン・フライvs高山善廣から20年、「頬骨が軋む音」を聞いたカメラマンの証言《本人コメントも》
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2022/06/03 17:03
2002年6月23日、『PRIDE.21』で繰り広げられたドン・フライと高山善廣の壮絶な殴り合い。現在もMMA史上に残る名勝負として記憶されている
2002年6月23日のさいたまスーパーアリーナは、全体的に低調な試合が多かった。第1試合こそボブ・サップが秒殺KOで見せ場を作ったが、その後は手堅く判定狙いの勝利に徹する試合が続いた。PRIDEらしい豪快な試合を期待した観客のフラストレーションは、たまる一方だった。
試合直前、レフェリーによるルールの確認のため、フライと高山はリング中央へ向かう。どちらからともなく顔を突き合わせた。その距離わずか数cm。互いに一切の瞬きはせず、激しい視殺戦が10秒以上も続いた。2人の様子がビジョンに映し出された瞬間、場内はこの日いちばんの大歓声があがった。そのどよめきの中、ゴングが鳴った。
2人の頬骨が軋む音と、血と汗のしぶき
この試合について、私が覚えていることは多くはない。
左手でお互いの首をホールドし合い、右手でひたすら顔面を殴る、殴る、殴る……。
「ゴッツ、ゴッツ」と頬骨が軋む音。
血と汗が入り混じったしぶきが飛ぶ。
痛い、とにかく痛い。
撮影している私が、その痛みを感じるほど壮絶な殴り合いなのだ。みるみるうちに高山の顔が腫れ上がってゆき、レフェリーの指示でドクターが傷をチェックする。だが試合は続行。再開後も寝技の展開はなく、空前絶後の殴り合いがひたすら続く。もっと楽な試合をすることもできるのに、この2人はそれを選ばなかった。
いま改めて思う。彼らにとって殴り合いを止めるということは、自分の弱さを認めることだったのではないだろうか。これは漢と漢の勝負だ。関節技で相手を屈服させても、それは試合に勝っただけである。相手をKOしないことには、勝負に勝ったことにはならない。だからこそ殴り合いにこだわったのではないか。
試合が大きく動いたのは5分過ぎだった。スタミナの消耗が激しい高山が、逆転のスープレックスを仕掛けた。しかし、それをフライに潰されグラウンドへ。マウントポジションを奪われ、パンチの連打を受けたところで、レフェリーが試合を止めた。
観客は両者の男気全開のファイトに対し、惜しみない拍手と喝采を送った。この試合に関しては敗者など存在しない。2人とも勝者であり、勇者であった。