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ナダル「接種すればいいだけのこと」…大騒動化してもなぜジョコビッチはワクチン接種を拒否し続けるのか?〈5つの違反疑惑まで〉
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2022/01/14 17:30
全豪オープン出場予定の前年度チャンピオン・ジョコビッチがオーストラリア入国を拒否された問題。事態は各方面に飛び火してまだ収まる気配がない
その後、イタリアのトリノで開催されたATPファイナルズでも同様の主張を述べた上で、「ワクチンのことだけじゃない。生きることの全てで、個人には選択の自由がある。それが豊かで幸せな人生に必要不可欠なものだと思うから」と加えている。
もっと早い段階としては、コロナ禍でツアーが停止して間もない2020年の4月、セルビアのアスリートたちとのフェイスブックのライブチャットの中で、母国語でこう語っていたという。
「僕はワクチンの接種自体を否定しているのではない。ただ、誰かが僕の体内に無理やり何かを入れるのは嫌だ。受け入れられない」
あの精密機械のような肉体を作り上げるために、過酷なトレーニングと厳しい食事制限を行ってきたことはよく知られている。その徹底ぶりは、今回も拘束状態にあったメルボルンのホテルに、グルテンフリーの食事とトレーニング用具などを持ってきてほしいと要求したほどだ。
今大会でワクチン免除が認められたのは「わずか」
ジョコビッチと同様の信条を持つ選手はほかにもいて、そのため全豪オープンを欠場する選手もいる。たとえばダブルスで生涯グランドスラムを達成しているフランスのピエールユーグ・エルベールはそのひとりだ。今大会でワクチン免除の申請をした選手は、大会ディレクターのクレイグ・タイリー氏によると男女で26人いたそうだ。その名を公表する理由はないとしているが、うち実際に申請が通って出場がかなった選手は「わずか」であることだけ明かした。
その誰かではない、ジョコビッチだからこれほどの人や組織や国の政治的な思惑が絡み合い、ぶつかり合った。現在、グランドスラム優勝回数においてロジャー・フェデラーとナダルと並ぶ男子史上最多タイの20勝。うち9回を占める全豪オープンはもっとも相性のいい大会で、ここが新たな歴史の舞台になる可能性は高い。そういう状況だからなおさらファンもアンチもその熱量が激しく、空気を見ながら政治家までも乗り出してきたという見方もされる。
ジョコビッチのビザを取り消す権限を保有しているという移民担当大臣は何も発言しないまま、13日の予定時刻から遅れて発表された全豪オープンのドローにジョコビッチの名はあった(編集部注:14日夕方、豪政府はジョコビッチ選手のビザ取り消しを正式に発表)。逆風はおさまらないだろう。王者は最強のままでいられるだろうか。ジョコビッチという人間をもう一度知るメルボルンの夏になりそうだ。