酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「歴代12人だけの投手4冠」山本由伸でも《完全クリアできない7項目》 沢村賞は“現代野球の尺度に合ってない”のでは
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byNanae Suzuki
posted2021/11/25 11:04
山本由伸は日本シリーズ第1戦の投球内容でも“普通”レベルなのだから恐ろしいスーパーエースである
1970年 巨人 13人
1980年 広島 14人
1990年 西武 17人
2000年 巨人 25人
2010年 ロッテ 25人
2020年 ソフトバンク 27人
現代のプロ野球では半世紀前の2倍の投手が投げている。1970年は130試合制、2020年は120試合制だった。ちなみに今季のヤクルトは26人、オリックスは30人だ。ローテが確立されて先発投手数が増え、また分業が進んで救援投手数が増えたことが起用投手数の増加につながっている。
NPBの支配下選手は1992年、それまでの60人から70人になったが、投手数が増加したことも一因になっている。
宮城・奥川・佐々木朗の起用法に見る最新傾向
この傾向は近年、さらに顕著になっている。投手の肩肘についての医学の知識が高まるとともに、特に若い投手には無理をさせなくなっている。
今季、大活躍した20歳のオリックス宮城大弥、ヤクルト奥川恭伸、ロッテ佐々木朗希は十分な登板間隔を取ったうえで、投球回数もセーブしている。3人ともに完投は1試合も記録していない。
「経験を積めば完投するようになる」という見方もあるが、3人ともに、今後も6~7回、100球程度を目安に投げる投手になっていくと思う。
200勝投手の選考委員が呈した苦言
沢村賞選考委員は、全会一致で選出した山本由伸を絶賛したが、同時に苦言も呈している。
堀内恒夫委員長「残念ながらセ・リーグの投手の成績では私は沢村賞を選考するには値しないと思っている。もうちょっとセ・リーグの投手も頑張ってほしいなと思う」
村田兆治委員「過去にないぐらい完投数が少ない」
山田久志委員「もう少し投手のレベルを全体的に上げて、沢村賞候補がいつも3人、4人と、我々選考委員を困らせるような、そういう投手の出現を切に願って、レベルアップをしていただきたいと思います」
昭和の時代の200勝投手である選考委員からすれば、選考する甲斐がないというところだろうが、先発投手の投球回数、投球数が少なくなる傾向は今後とも続くと思われる。沢村賞の選考は、さらに難しくなるだろう。
今の投手に「昔のように先発完投で頑張れ」と言うのは、現実的に厳しいと思われる。大部分の指導者もそれを求めていない。
投手の実力が昔よりも落ちたわけではなく、野球そのものが変化して、起用法が変わったのだから、むしろ、沢村賞の選考基準の方を改訂していく必要があるだろう。
アメリカのサイ・ヤング賞も時代に合わせている
MLBでは最も活躍した投手にサイ・ヤング賞を与えている。沢村賞が1947年に始まっているのに対し、サイ・ヤング賞は1956年からだ。しかしこの賞は時代とともに選考基準が大きく変わっている。MLBでは1969年からセーブを公式記録にしたが1974年には最多セーブのマイク・マーシャル(ドジャース)がサイ・ヤング賞に輝いている。
また近年は、選考の際には勝利数や防御率ではなく、WARやK/BBなど新たな指標が重視されている。