- #1
- #2
Number ExBACK NUMBER
日本シリーズ第5戦と同日に『ドーハの悲劇』が…野村克也は「まったく興味なし」、一方の森祇晶がしみじみ語ったこととは?
posted2021/11/25 11:03
text by
長谷川晶一Shoichi Hasegawa
photograph by
BUNGEISHUNJU
神宮球場に隣接したクラブハウスで、男たちはじりじりした思いを抱えながら食い入るようにテレビ中継を見つめていた。岡林洋一と伊藤智仁だった。
前年の日本シリーズでは3試合に先発して3完投、全430球を投げ抜いた岡林は右肩痛がぶり返し、この年はベンチ入りがかなわなかった。
ルーキーの伊藤は前半戦だけで7勝を挙げる大活躍を見せたが、7月に右ひじを痛めて以来、まったくボールを握ることができなかった。西武ベンチを攪乱させるべく、日本シリーズ40人の出場枠に名を連ねてはいたものの登板予定は皆無だった。
岡林洋一、伊藤智仁が見守る中で……
三勝一敗で迎えたこの日、チームメイトとともに歓喜の瞬間を迎えるべく、岡林と伊藤は召集されていた。
(本来ならば、オレもあの舞台に立っているはずなのに……)
両者はただただ、仲間たちに声援を送ることしかできなかった。
8回裏、ついにヤクルトに得点が入った。
先頭の飯田が内野安打で出塁すると、笘篠の代打に左の秦真司が登場する。ここで森は鹿取に代わって、左投手の杉山にスイッチ。すると野村は「代打の代打」として、右の角富士夫を指名する。しかし、角はタイミングが合わずに空振り三振。すると森は杉山に代わって、四番手に潮崎を指名する。野村と森による目まぐるしいベンチワークが繰り広げられる。
一方の野村も黙ってはいない。一死一塁、古田が打席に入った場面でヒットエンドランを敢行。見事に決まって一死一、三塁となった。
このシリーズでは、ここまで打点がない四番の広沢克己が打席に入る。ここで広沢は2球目のストレートをライト前に弾き返す。四番の意地の一打で1点をもぎ取った。
これで1点差となった。ビニール傘が乱舞する神宮球場。
なおもヤクルトは一死一、二塁のチャンスが続く。