ぶら野球BACK NUMBER
「そりゃあないぜタツノリ…」“球団史上最も勝った監督”原辰徳に巨人ファンの冷めた空気…なぜズレが生まれた? 問題は原巨人の“負け方”
text by
中溝康隆Yasutaka Nakamizo
photograph byNanae Suzuki
posted2021/11/04 17:05
63歳の原監督は通算1152勝。球団史上最も勝った監督になった
それに加えて、近年の原監督は球界への提言も積極的に行っていた。「セ・リーグにもDH制度の導入」「コロナ禍で来日が遅れる外国人選手の12球団合同トレーニング案」など数々の改革案や、今季は「誰かがそれを成功させると、次にはスタンダードになっていく」と中5日先発ローテに挑戦。さらに昨季から引き続き、「プロ野球選手はみんな限られた年数の中での個人事業主」と飼い殺しはせずに主力選手も果敢にトレードで放出。開幕前にはサウスポー田口麗斗が若手大型野手の廣岡大志との交換トレードでヤクルトへ。7月には炭谷銀仁朗を金銭トレードで楽天へ放出して驚かせた(皮肉にも、どこでも投げられる田口と百戦錬磨の捕手・炭谷の不在が勝負どころで響くわけだが……)。
よく、これらのタツノリ改革案を「結局、巨人有利に戦うためじゃないか」と揶揄する声もある。だが、個人的には真逆だと思う。今季のときに不可解とも思える采配の数々も、こう仮定すると辻褄が合うからだ。数々の改革案に対して、周囲が思う以上に「原辰徳は本気だった」と。なぜなら、改革がガチだったからこそ、引くに引けなかった。だから、例えば自ら「まだ32歳、道を閉ざすことはしてはいけない」という大義名分のもとに獲得した中田翔を打率1割台でも使い続けたのではないだろうか。
すでに“球団史上最も勝った監督”だが…
プロ野球に限らず、プロスポーツにおいては「勝利と育成」の両立が理想とされる。若手を使え、とよく言うが若手を使い続けて断トツの最下位に沈んだらファンは怒るだろう。あくまで勝ちながら育てることが求められる。だから、「勝利と育成」は難しい。にもかかわらず、原監督はさらに難易度の高い「勝利と改革」を自らに課したわけだ。重い、重すぎる十字架だ。やがて、その重みに耐えかねてチーム全体が軋み出した。「勝利と改革」は、さすがの原監督をもってしても無謀だったように思う。
現在63歳の原辰徳は、通算1152勝。すでに巨人監督として偉大なONやV9指揮官の川上哲治を上回り、球団史上最も勝った監督になった。あらゆることを成し遂げ、もはやGM的な全権監督としてチームや野球界の「その次」を見る気持ちも分かる。ただ、多くの選手やほとんどのファンは「今」を見ている。ここに、決定的なズレがある気がする。観客は球場で実験ではなく、勝利が見たいのだ。いつの時代も改革の前提には、勝利がなければ大衆は納得しない。2021年の原野球にカタルシスが少なかったのも、その根本的な野球観の断層が原因ではないだろうか。
エクスキューズなしの原野球を見てみたい
すでに来季の契約延長も報道されているが、前回勝率5割を切った06年オフ、雪辱に燃えた原監督は、もう一度根本的にチームのベースを作り直した。07年は高橋由伸を1番打者で再生し、故障がちになっていたエース上原浩治の抑え転向を決断して巨人再構築に乗り出す。投打の大黒柱のふたりは当時32歳。現代の坂本・菅野とほぼ同世代だ。なお、06年に内海哲也は24歳で初の二ケタ勝利をあげたが、今季同じくキャリアで初めて11勝を記録した高橋優貴も24歳である。もちろん既存の戦力の底上げだけではなく、FAで小笠原道大、トレードで谷佳知の獲得と補強の手も緩めなかった。