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《プロ野球スカウトに聞く》ドラフト有力候補“まさかの指名漏れ”のウラ側…今年の特殊事情「なぜ野手で指名漏れが多かった?」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2021/10/29 11:03
2020年のドラフト会議。広島カープから1位指名を受けた栗林良吏(トヨタ自動車)
どうきびしいというのか。
「最近は、若いスカウトが増えて、ドラフト前のグレーな部分を知ってる人も少なくなった。1位が自由競争だった頃の“裏金問題”ももう昔ばなしになりつつある。入団交渉で駆け引きのできるスカウトなんて、何人もいなくなってますから、交渉が難しい場合はほかの理由をくっつけてリストから消してしまうんですね。
親が借金まみれというのも困りますけど、野球は道具とか、何かとお金がかかりますからね。最近は、そこまで貧しいという選手も、めったにいなくなった。その代わり、モンスターペアレンツですかね。昔の話ですけど、二軍の試合で、ダグアウトの屋根から顔を出して『ここはウチのせがれしかないやろ!』って怒鳴り込んだ親がいたそうです。親のそういう“執念”っていうんですかねぇ。やっぱり、人間は感情の部分がいちばん難しいですよねぇ」
今年の特殊事情「なぜ野手の指名漏れが多かった?」
昨年から今年にかけて、世界じゅうがコロナに翻弄された中で、野球界も決して例外ではなかった。
「今年に限っていえば、それが、指名漏れのいちばん大きな理由だったかもしれない。特に大学生は秋のリーグ戦が遅れて、ドラフトまでに実戦を確かめる機会が少なかったでしょ。投手は一度か二度も見れば判断できますけど、野手はそれじゃわからない。野手なんて、1試合でせいぜい4、5打席で守備機会も3、4回でしょうか。バッティングには波もあるし、1、2試合じゃなかなか判断できない。ドラフト指名には“決断”が必要です。ムリだったんでしょうね」
そういえば……思い出したことがあった。
ドラフト後に、スポーツ紙に掲載された「主な指名漏れ選手一覧」。野手のほうがずっと多かった。
指名漏れの選手をあずかることになった社会人野球の監督さんが、こんなことを言っていた。
「確かに、ドラフトでは指名漏れかもしれないけど、最後まで候補に挙がっていたほどの技量と身体能力の持ち主なんです。ぼくらにとっては、“ドラフト1位”なんですよ。そのことを言ってあげるんです、彼らに。嬉しそうな顔するんですよ。一度は折れそうになった気持ちを立て直して、キラキラッとした表情を取り戻す。それが、そのまんま、彼らの伸びしろになっていくんですよ」
ドラフトが終わって、2週間ちょっと。
高校生は夏で現役を退いているが、大学生、社会人は今も公式戦が続く。
そういう目で見てしまうせいか、指名漏れを経験した選手でも、どこか精彩が感じられない選手もあれば、逆に、何かが吹っ切れたようにムダな力みや気負いが抜けて、スカウトが見たら「獲っておけば……」と、ついポケットの中でこぶしを作ってしまうようなパフォーマンスを見せる選手もいる。
たとえば指名漏れになった投手が、上位指名された打者に向かって、キバをむいて渾身の腕の振りで闘いを挑んでいく場面の緊迫感――それぞれの「ドラフト」は、2週間経った今もまだ続いているのだ。<ドラフトウラ話・阪神編から続く>
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