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《プロ野球スカウトに聞く》ドラフト有力候補“まさかの指名漏れ”のウラ側…今年の特殊事情「なぜ野手で指名漏れが多かった?」
posted2021/10/29 11:03
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
Sankei Shimbun
“流しのブルペンキャッチャー”として全国各地、数多くのアマチュア選手を取材してきた筆者。プロ野球スカウトの証言からドラフト会議の舞台裏をレポートする。(前回《阪神編》へ)
今から3年前、2018年のドラフトで、私は「ええーっ!」と驚く出来事に出くわした。
いくつかの媒体で、何度か取材を繰り返し、話も聞いて、人一倍のプロ入りへの思いと、そのための十分な準備と覚悟を確かめていたひとりの投手が「指名漏れ」になった。
名城大・栗林良吏投手(現・広島)だ。
所属する愛知大学リーグは、確かに全国紙で大きな活字になるリーグではなかったので、知名度はそれほどではなかった。それでも「学生ジャパン」のメンバーにも選ばれていたし、何よりコンスタントに145キロ前後をマークしながら、曲がりの大きなスライダーを交え、アウトを重ねて試合を作っていける能力の高さは、プロ側も誰もが認めていた。
「トヨタがぴったりマークしてましたからね」
大阪桐蔭高・根尾昂(現・中日)、藤原恭大(現・ロッテ)、金足農業高・吉田輝星(現・日本ハム)……など、甲子園組の高校生がドラフトの話題をさらった2018年だったが、仮に1位ではないにせよ、上位の2位か3位では指名確実と聞いていたから、余計に驚いた。のちに関係者からこんな話を聞いた。
「栗林には、下級生の頃からトヨタがぴったりマークしてましたからね。上位指名でなかったら、トヨタ入社という流れだったそうです」
その時初めて、「○位縛り」という言葉を聞いた。
たとえば、3位以内の上位に指名された場合は、プロの評価もそれなりに高かったのだから、プロ入りも仕方ない。しかし3位までに指名されなかったら、ウチで頑張ってくださいね……ということだ。