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「トミヤスは見事」「マヤの功績」英国識者が絶賛 アジア人DFはプレミアで通用しない説を覆す冨安健洋&吉田麻也の《英語とスキル》
posted2021/10/29 11:04
text by
田嶋コウスケKosuke Tajima
photograph by
Getty Images
「イングランドは、アジア人センターバックにとって鬼門だった」
そう語るのは、英紙サンデー・タイムズでサッカー部門の主筆を務めるジョナサン・ノースクロフト記者である。欧米人に比べて体の小さいアジア人CBは、接触プレーや空中戦の激しいイングランドで頭角を現すのは難しい──。英国人識者の間でも、ノースクロフト記者の見解はこれまで定説とされてきた。
サッカー発祥の地であるイングランドの伝統は「キック&ラッシュ」だ。足元へのショートパスを省略し、クロスボールやロングボールの直線的なアプローチでゴールに迫る。良く言えばパワフルで、悪く言えば大味。これがイングランドの良さでもあり、欠点でもあった。
過去を振り返っても、サム・アラダイスやトニー・ピューリス、マーク・ヒューズなど英国人監督の采配には「キック&ラッシュ」の影響が色濃く見えた。ニューカッスルの指揮官を先日退任したばかりのスティーブ・ブルースや、バーンリーのショーン・ダイシ監督も、この英国特有の伝統が戦術の骨幹にある。
必然的に、最終ラインを支えるCBはロングボールを跳ね返すのが最大の任務とされた。
相手に体をぶつけられてもビクともしない巨漢CBは、イングランドサッカーの代名詞だった。実際、レスターでプレーしたウェズ・モーガン(186cm、101kg)やロベルト・フート(191cm、88kg)、ブラックバーンでアラダイスに愛されたクリストファー・サンバ(195cm、100kg)は、まるでヘビー級ボクサーのような体つきで敵をなぎ倒した。
吉田在籍当時、サウサンプトンにはファンダイクらがいた
そんな中、アジア人CBとして突破口を開いたのが、2012~20年までサウサンプトンでプレーした吉田麻也だ。
ビルヒル・ファンダイクやトビー・アルデルバイレルト、ジョゼ・フォンテといった各国代表プレーヤーの活躍でベンチを温める時期もあったが、持ち味のビルドアップ力を生かし、レギュラーCBとして躍動したシーズンもあった。実際、ノースクロフト記者もこのように語っている。
「入団時は線の細さが目立ったが、筋力トレーニングで体つきもたくましくなった。アジア人CBとして、吉田がプレミアリーグで残した功績は大きい」
プレミアリーグの歴史を紐解くと、アーセナルにやってきたアーセン・ベンゲルを筆頭に90年代後半から外国人監督が多数到来し、強豪クラブを中心にポゼッションサッカーの礎が築かれた。吉田がサウサンプトンに渡った2012年当時は、プレミア下位クラブも「つなぐサッカー」に本腰を入れるようになった。