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恩師・両角速監督が“これからの大迫傑”にかける期待「指導者としても別次元に」 先輩・佐藤悠基は「僕を見てほしい(笑)」
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Number編集部Sports Graphic Number
photograph byGetty Images
posted2021/10/17 06:01
東京五輪男子マラソンで6位入賞を果たし、思わず感極まる大迫傑。ラストレース後には「次の世代」への期待も口にした
大迫は「ノイズ」が嫌でケニアに行ったわけではない
――本書のテーマのひとつになっている「ノイズキャンセリング」についてお聞きします。佐藤選手は雑音をシャットアウトしたいと思ったことはありますか?
佐藤 やはりそういうのはあります。自分の結果一つで世間の評価は変わる。走ることでお金をもらっているから評価を受けるのは当たり前だと思っていますが、嫌な話も耳に入ってきます。アスリートとして避けては通れないんでしょうね。できることなら僕もノイズキャンセリンングして競技だけに集中したいと思いますが、それらも受け止めて力を出すのが本当の一流なのかなと思っていたりもします。
僕のここまでやってきた過程を知らない人がほとんどなので、その人たちに何を言われようが関係ない、と思うようにもしています。あとは結果を出して、言葉は悪いですが「マイナスな情報をねじ伏せてやろう」という気持ちを持ちながらやるようにしています。
両角 大迫の練習日誌にも書いてあったんですけど、アスリートの魅力として記録プラスアルファがある、そのために大迫もいろんなことを発信している。発信している分、同じ量で受信しなくてはならないところがある。
最初から黙っていれば何も言われないだろうと思う一方で、発信していかないとプラスアルファの魅力は出てこない、とも思います。受信するものの中には、自分にとってプラスになるものもある。それを求めて発信することもあるでしょう。特に大迫は、自分がいろんなことを発信する中でその反応を見て自分を奮い立たせていく場面も見受けられます。一方で自分の思ってもみない反応が入ってきた時にそれがノイズに感じられて、シャットアウトしたくなるのも理解できます。調子が悪い時は雑音にしか聞こえないですし。
ただ、それが嫌でケニアに行ったとは私は思いません。オリンピックが1年延期となった。大迫にとっては2020年に行われるべきオリンピックで引退を考えていた。その時に何かを埋めることができたのがケニアでのトレーニングだったんだと思います。その選択がなかったら、この1年が空洞となってしまって、彼自身が下降していたんじゃないか――。そのタイミングでケニアに行けたことで、もう一段階上のレベルをキープできただろうから、すごくプラスになったと思いますね。
涌井 大迫選手は、ケニアでの練習日誌と、ノイズキャンセリングを本のテーマに挙げてきました。僕は最初、「ノイズキャンセリングって何?」と。去年の年末から年始にかけては、東京オリンピックが開催されるかはっきりしない時期で、それに対しての意見や、コロナに対する情報が次から次へと入ってくる。そこに対してスタンスを取りたい、一言で言うとノイズキャンセリングをするためにケニアに行くんです、と彼は言っていたんです。
そこでメディアを巻き込んで、自分のことを発信したい、本を出したいと。本を出す作業こそ選手にとってはノイズでしかないと思うんですけど、それを引き受けた上で発信したいというところに、「ノイズをキャンセルしたいんだけど、ノイズを無視する強さもある」大迫傑のキャラクターが見えてきたのかなと思います。