オリンピックPRESSBACK NUMBER
恩師・両角速監督が“これからの大迫傑”にかける期待「指導者としても別次元に」 先輩・佐藤悠基は「僕を見てほしい(笑)」
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byGetty Images
posted2021/10/17 06:01
東京五輪男子マラソンで6位入賞を果たし、思わず感極まる大迫傑。ラストレース後には「次の世代」への期待も口にした
本人も本の中で、最終的にはケニアに行ってもノイズキャンセリングはできなかったと言っています。YouTubeもSNSもやっちゃいますと。そのなかで何ができるかと考えた時に、「僕の周りに流れている音楽やノイズを全部キャンセリングするんじゃなくて、そのなかで聞きたい音楽、聞きたい音に耳をすませるしかないと気付いた」と言っていた。これは佐藤選手のいう「受け止める」という言葉に非常に近いのかなと。これだけ発信して影響力を持ちたいと言っている大迫選手にとって、本を出すのも一つの手段だったと思いますし、YouTubeで引退を発表するというやり方も彼らしかった。一方で「ノイズキャンセリングできない、でもそのために試行錯誤してきた」という葛藤の過程も読み取れるので、この練習日誌には大迫傑という人間の面白さや“素”が詰まっているのかなと思いました。
指導者・大迫への期待「なんなら僕を見てほしい(笑)」
――それぞれ、大迫さんの第二の人生に期待することは?
両角 そもそも大迫傑はあまり他人に興味のない人間です。今後指導するとなるとそういうわけにもいかないので、ここから先は相手と向き合っていくなかでぼちぼち他人にも興味を持たないといけない時期にきたのかな、と。指導者はこうあるべきというのは確かにあるのかもしれませんが、彼がアスリートとして無二の存在であったように、指導者としてもそういうものを発揮してほしい。別次元のものを期待しています。結果として、自分を超える様な選手を作ってほしい。ジュニアの育成に関して、彼がそこから掘り起こしていかないといけないと思っているかはわかりませんが、彼が経験してきたことはトップアスリートの育成には欠かせないことです。そういう意味では世界で戦えるようなトップレベルの選手の育成を、私としては望みたいです。
佐藤 僕はまだ現役なので、指導という面では何も言えないのですが、なんなら僕を見てほしいですね(笑)。
彼は、僕には気を使っていて、あまり本音では語ってこないのをひしひしと感じています。彼のことは本当にリスペクトしているので、引退した今は腹を割って話をしたいです。彼からもっともっと吸収したいなと思っています。多くの若い選手もみんなそう思っているので、どんどん発信してもらいたいです。
涌井 先ほど話に出た上野裕一郎さんが立教大学の男子駅伝監督になったり、横田真人さんが新谷仁美さんのコーチになるなど、佐藤さんと同世代の人が陸上界に指導者として戻ってきていますが、それについてはどう思われますか。
佐藤 僕と年齢の近い人たちが指導者として実績を少しずつ出し始めているのは、これからの陸上界が変わっていく兆しなのかな、と感じています。本気で世界を目指した人たちが指導の場に戻っていって、自分たちが教える選手をどうにか世界で戦わせたいと強い気持ちを持ってやっているので、そこに期待しつつ自分もその波に乗り遅れないようにしたいと思います。
涌井 まだまだ現役を続けてほしいです。
佐藤 そうですね。僕もこの先、長いとは言えない競技人生の中で、何が自分にとってプラスになるのか、何が自分の強みになるのかを考えたい。陸上界の選手寿命を延ばしていくために自分がまずできるだけ長く続けて、指導者になった時にそれを自分の強みとして指導していけたらなと思います。