オリンピックへの道BACK NUMBER
東京五輪が“新しい五輪”だったことを示す「3つの光景」 IOCの「若い世代を引き込みたい」意図はどう着地した?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKaoru Watanabe/JMPA
posted2021/08/09 17:10
今大会、金メダルを獲得し大きな話題となった堀米雄斗。若い世代の活躍が目立った東京五輪には新しい光景が見られた
このとき、選手同士で会話をしている姿があった。登り方を相談していたりするのだ。初めて観る人には、「どうして競い合う相手と話しているのか、相談するのか」と驚きがあったという。ボルダリングのジムの経営者はこう表現している。
「登るときは1人、でも、言い方はおかしいけれど、全員がプレイヤーであり、全員が(教える)先生みたいなもの。そういうつながりなんです」
競い合うという関係を超えた連帯感がそこにある。今大会で女子スポーツクライミングが行なわれたあと、優勝したヤンヤ・ガルンブレト(スロヴェニア)、銀メダルの野中生萌、銅メダルの野口啓代が、あるいは出場した選手たち皆が互いを称え合う光景も観る人々に余韻を残した。
スケートボードやスポーツクライミングの持つ連帯感が、大会の中でインパクトを与えたのだ。
スケートボードそのものを伝えようという思い
スケートボードに話を戻したい。
今大会でスケートボードが注目を集めたのには、ストリートの男子で優勝した堀米雄斗、同女子優勝の西矢椛、銅メダルの中山楓奈、パークの女子を制した四十住さくら、銀メダルの開心那ら、日本代表の活躍があったのはもちろんだ。それを糸口に、多くの人がスケートボードのカルチャーに新鮮さを覚えただろう。
その一つの要因に、「解説」がある。スケートボーダーの瀬尻稜が務めたが、スケートボードへの情熱が感じられる口調をベースにしつつ、スケートボードならではの言葉遣いを交えての解説が大きな反響を呼んだ。
以前、あるマイナーと言われる競技の解説を担当したことがある人に話を聞いたことがある。競技の専門用語を使うとおそらく伝わらないと思い、いかに言葉を置き換えるかに腐心したという。分かりやすく伝えようとする姿勢に、競技を広めたいという思いも感じられた。それも目指す方向だと思う。一方で今回の解説には、単純にすり寄るのではなく、スケートボードそのものを伝えようという思いを感じたし、スケートボードの抱く競技性、カルチャー、それらをひっくるめて、誇りも感じられた。