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マラドーナ発「戦術進化の革命史」 メッシら現代的10番とクロップ&グアルディオラの発想が生まれたワケ
posted2020/12/28 11:00
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
AFLO
「僕は10番が好きで育ってきたし、プラティニ、ジーコ、マラドーナ、クライフのようにプレーしたいと思っていた。サッカー界に10番の役割が戻ってきてほしい。僕はそう切望している」
12月1日、FIFAの公式サイトにこんなコメントが掲載された。発言の主は日本サッカー界が誇るゲームメイカーの1人、遠藤保仁である。実際の取材がいつ行われたのかは知る由もない。だが、これはまさにタイムリーなインタビューだった。数日前にはディエゴ・マラドーナの訃報が届いていたからだ。
身体能力の爆発的な向上、各ポジションがこなす役割の細分化とマルチロール化、攻撃的サッカーと守備的サッカーの揺れ戻し。モダンサッカーの進化はいくつもの文脈で論じることができるし、ピッチ上に様々な変化をもたらした。
だが遠藤のインタビューからもうかがえるように、10番は戦術進化の影響が最も色濃く表れたポジションの1つとなった。とりわけマラドーナはクライフとともに10番のプレースタイルを刷新し、進化と変化の方向性に決定的な影響を及ぼした選手だったと言える。
ならばマラドーナは、いかなる意味で革命的だったのか。それは概ね3つの要素に還元できる。
広すぎるプレーゾーンと高い運動能力
1つ目はプレーゾーンの驚異的な広さだ。
W杯メキシコ大会のイングランド戦、「5人抜き」のゴールシーンなどは例としてわかりやすい。マラドーナはセンターラインの手前まで下がってボールを拾うとドリブルでゴール前まで運び、最終的にゴールまで決めている。
このような傾向は、2つ目の特徴である運動能力の高さに関連する。
先日、NumberWebで水沼貴史氏が「衝撃の太もも」なる追悼文を寄せられていたが、ゴム毬のような体を躍動させながらプレーするマラドーナのスタイルは、クライフやプラティニによって確立されたイメージ、「10番=長身痩躯で、天性のパスセンスを武器に勝負する選手」というステレオタイプを根底から覆した。
実際のプレーも型破りだった。中学時代、初めてマラドーナの映像を見た時の衝撃は今も忘れられない。縦縞のユニフォームを着た若きスターは、様々なトリックで敵をひきつけてから、オーバーヘッドでラストパスを出す芸当までやってのけた。