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マラドーナ発「戦術進化の革命史」 メッシら現代的10番とクロップ&グアルディオラの発想が生まれたワケ
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byAFLO
posted2020/12/28 11:00
マラドーナを止めに行くミランのバレージ。天才アタッカーがこの世に生を受けていなければ「10番」の進化も、果敢なプレスもなかったはずだ
巷ではゲーゲンプレスに流れるプレッシングの思想と、ポジショナルプレーにまで高められたバルセロナ由来のサッカー哲学を、別物として捉えようとする傾向が強い。
たしかに前者はボール奪取とスペース極小化のために編み出されたのに対して、後者は逆にボールとスペースの確保を目的としている。
すべては“化け物”マラドーナを封じるため
だが組織的なプレーを通して、ピッチ上の時間と空間を支配するという根本的な発想には、なんらの違いもない。違っているのは具体的な方法論に過ぎない。
ならば、どうして時間と空間を支配しなければならないのか? マラドーナのような化け物を封じ込めるためである。実はこれこそが、現代サッカーの戦術進化を促してきたテーゼだった。
時代に逆行するかのように君臨したジダン
皮肉なことにマラドーナは、10番の可能性を広げた革命児でありながら、組織サッカーの本格的な萌芽を呼び寄せ「10番の幕引き」を早めた張本人ともなった。
そんな中、時代に逆行するかのようにピッチ上に君臨したのがジダンである。
マラドーナとジダンを同列で論じるのは、マラドーナとメッシを比較する愚にも似ている。だがマラドーナとジダンには、相通じる要素も確実にあった。
卓越したパスセンスやテクニック、戦術眼、スタイルこそ違えど、ドリブルの名手だった点などはすぐに思いつく。何よりジダンも1人で試合の流れを変えられる選手だった。
2001-02シーズンの欧州CL、決勝のレバークーゼン戦で見事なボレーシュートを放ち、激闘に決着をつけた場面はその最たるものだった。試合後、敵将のトップメラーは手放しで相手を讃えている。
「トレーニンググラウンドで、延々と計画を練ることはできる。ところが(試合では)想定できないことが起きてしまう。ジダンのゴールがまさにそれだった」
リケルメは恐竜のような絶滅危惧種に
ただしジダンも、時代の波に抗うことはできなかった。
そもそもジダンが存在感を示すことができたのは、当時のレアル・マドリーが「銀河系」なる時代錯誤のチーム作りを行っていたからだった。天文学的な額の札束を積んでスター選手をかき集め、守備の脆さなど気にせずにゴールを狙うサッカーを目指すなど、そうそうできるものではない。
事実、輝かしい10番の系譜は途切れた。ジダンはマドリーでのラストゲームとなったビジャレアル戦の後に、リケルメとユニフォームを交換している。しかしトップ下に構えて動こうとしないリケルメは、恐竜のような絶滅危惧種に堕していく。