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東大卒がなぜバレーボールのアナリストに? 日本代表・古賀紗理那も「裏ボス」と信頼する“伝える”技術 

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田中夕子

田中夕子Yuko Tanaka

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photograph byNEC RED ROCKETS

posted2020/11/28 06:00

東大卒がなぜバレーボールのアナリストに? 日本代表・古賀紗理那も「裏ボス」と信頼する“伝える”技術<Number Web> photograph by NEC RED ROCKETS

東京大学運動会バレーボールを経て、2018年よりNECレッドロケッツのアナリストを務める藤原稜さん

「NECの裏ボスだと思っています」

 たとえば昨シーズンのある試合ではこんなシーンがあった。

 NECは相手に対する策の1つとして、セッターの澤田由佳をブロック時にあえて真ん中で跳ばせた。ブロックの形に定評はあるが、158cmの澤田は当然相手からすればウィークポイントになる。だが、選手たちは事前に「理由がある」とミーティングで藤原から伝えられたことから、迷いはなかった。古賀は言う。

「『クロスに打たれるかもしれないけれど、このチームならばたとえ(澤田の)上から抜かれてもそのコースにレシーバーがいれば問題ないです』と言われたので、ブロックはストレートを手厚くすることができたんです。相手のスパイカーの攻撃力があまり高くないと強調するために『この選手は決定率が何%だから大丈夫』とか、いろいろな数字を出して説明してくる人もいますが、藤原さんは逆。頭の中にいろんなデータや数字が入っているだろうけれど、私たちに伝える時は余計な情報を省いて、何をすればいいか、それがどういう意味かを簡潔に伝えてくれる。

 だから、それで決められたとしてもお互いを責めたり、本当にこの策でいいのかと迷うことなく『今は相手のスパイクがよかった』とすぐ切り替えることができたんです。練習中はほとんど口を出さないけれど、全体を見ている感じはすごく伝わる。私は藤原さんがNECの裏ボスだと思っています(笑)」

東大進学は“やりたいことがなかったから”

 藤原がバレーボールと出会ったのは中学に入ってからだという。当時は、後に自分がバレーボールの道に進むなど微塵も考えたことはなかった。それどころか「将来何になりたいか」と聞かれてもまるで答えは見つからなかった。しかし、「何をしたいかわからない」ことこそが、東大に惹かれた理由でもあったと言う。

「他の大学と違って、東大は2年生になってから学部を選択できるんです。僕は特別やりたいことがなかったので、何かを選ぶために2年間猶予が与えられるなら、という気持ちで、じゃあ東大を受けてみようと決めました」

 東大出身のプロ野球選手がドラフトで話題になるように、東大からスポーツの世界へ入る学生もいないわけではない。だが、それはあくまで六大学リーグに在籍する野球や、関東1部リーグのアメリカンフットボールの話で、関東3部リーグに属した東大バレー部からVリーグの世界へ飛び込むことは選択肢にも入らない。

 ではなぜ、藤原はVリーグへ進んだのか。

【次ページ】 NECは希望していた就職先の1つだった?

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