欧州サッカーPRESSBACK NUMBER

ポゼッションサッカーの「神髄」とは? ビエルサが演出した熱狂のリバプール戦で起きていたこと 

text by

赤石晋一郎

赤石晋一郎Shinichiro Akaishi

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2020/09/24 11:00

ポゼッションサッカーの「神髄」とは? ビエルサが演出した熱狂のリバプール戦で起きていたこと<Number Web> photograph by Getty Images

リバプール戦でテクニカルエリアからチームに指示を叫ぶビエルサ

ビエルサ流ポゼッションサッカーの神髄とは?

 しかし、この時のフィリップスはポジションを下げることなく、やや高目の位置に留まったままでいた。

「もしフィリップスがポジションを下げていたら、反転したフィルミーノにプレスを受けていた可能性が高かったでしょう。ポジションを下げなかったことで彼はフリーになれたのです。GKメシレからMFフィリップスにボールが渡った時点で、フィルミーノ、サラー、マネによる前線の守備ラインは“死に体”となりました。

 そしてフィリップスのロングパスを受けたハリソンもまた、対峙するサイドバックのA・アーノルドと並走しながらボールを受けました。ラインの横か後方でボールを受けるという『パシージョ』を意識したプレーです。パシージョを意識したプレーとは一本のパスで局面を打開すること、または受け手のファーストタッチで局面を打開するということです。2連続パシージョにより決定機が生まれ、ゴールに繋がったといえるでしょう。

 局面を進める、局面を打開することによって決定機を作り出す、というのがマルセロ流ポゼッションサッカーの神髄です。無暗に落ちてボールを受けるのではなく、相手選手のラインか、その後方でボールを受けろという意味がここにあるのです」(荒川)

 縦パスで前線の守備ラインを死に体にし、各種のパスやドリブルで最終ラインを崩す。サッカーではFW、MF、DFによる3ラインがシステムの基本とされているが、それぞれのラインを攻略するための手法の1つが「パシージョ」という考え方なのだ。

“ヨークシャーのピルロ”の異名

“ヨークシャーのピルロ”の異名通りのロングパスを通し、最高のプレーを見せたフィリップスだが、その後は当然のように激しいマークを受け、思うようにロングパスを出せなくなる。リバプールの3人のMFの走力と守備力はさすがに高かった。

 ハイテンポな展開で進んで行ったゲームがまた動いたのが前半20分、リバプールのコーナーキックからだった。DFファンダイクのヘディングシュートがズバリと決まり、リバプールが追加点を奪う。

 10分後、リーズも素早く反撃をする。中盤でボールを受けたMFクリヒが、動き出したFWバンフォードを目掛けてディフェンスラインの裏にロビングパスを出す。DFファンダイクは背走しながらいち早くボールに触るものの、トラップをミス。FWバンフォードは、こぼれたボールを掻っ攫いゴールを決めたのだ。

「速くて、高くて、上手い」という三拍子が揃い“世界最強DF”と評されるファンダイクを狙い撃ちにしたかのようなプレー。こうしたプレーもビエルサによって訓練されたものだと荒川は語る。

「最終ラインの裏を狙ったプレーは昨季のリーズもよく見せていました。『パセ・プロフンディダ』と一般に言うのですが、深い位置にパスを出せという意味です。相手エリアへの深い位置に出すスルーパス、フライパスをリーズは常に練習していたはずです。

 マルセロは常に『DFとGKにとって最も難しいのは、最終ラインとGKの間に入るボールの処理です。どのようなDFであってもゴールに戻りながらGKとコミュニケーションを取り、問題解決を強いられることになったら困難に陥る』という話をします」(荒川)

【次ページ】 「ダイナミズムを重視しなさい」

BACK 1 2 3 4 5 6 NEXT
#マルセロ・ビエルサ
#カルバン・フィリップス
#リーズ
#ユルゲン・クロップ
#リバプール
#モハメド・サラー
#アリソン・ベッカー
#ビルヒル・ファンダイク

海外サッカーの前後の記事

ページトップ