欧州サッカーPRESSBACK NUMBER

ポゼッションサッカーの「神髄」とは? ビエルサが演出した熱狂のリバプール戦で起きていたこと 

text by

赤石晋一郎

赤石晋一郎Shinichiro Akaishi

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2020/09/24 11:00

ポゼッションサッカーの「神髄」とは? ビエルサが演出した熱狂のリバプール戦で起きていたこと<Number Web> photograph by Getty Images

リバプール戦でテクニカルエリアからチームに指示を叫ぶビエルサ

クロップ「何て試合だ! とんでもない相手だった!」

 10メートル程度のランなら、ゾーンディフェンスの受け渡しで対応が出来る。しかし30メートル、40メートルを走り切ることによって相手ディフェンスには混乱が生じる。実際にアイリングに引っ張られる形でファンダイクはペナルティエリア内にスペースを作ってしまったのだ。最終ラインはリバプール2人対リーズ4人という局面の中で得点は生まれた。

 試合後の記者会見でビエルサはMFクリヒの重要性を力説した。この日、1ゴール1アシストを決めたクリヒはリーズにとって不可欠のプレイヤーの1人である。攻防一体のビエルサ・サッカーを体現するプレイヤーと言えるだろう。

 かつてクリヒはビエルサについて、こう語っていた。

「彼は選手としての私を変えてくれた、私もこんなプレーができるとは自分でも思わなかった」

 じつは2018年にビエルサが監督に就任するまで、リーズに所属していたポーランド代表マテウシュ・クリヒは構想外になりかけていた選手だった。当時、ディフェンシブMFを務めていた彼のチーム内評価は低く、前監督からオランダ・ユトレヒトへとローン移籍で放出される憂き目にもあっていた。

 しかしビエルサはローン移籍から戻ってきたクリヒをチームに留めた。彼がより前で活きる選手だということをすぐさま見抜き、レギュラーMFとして起用したのだ。以降、クリヒはリーズの主力選手として活躍するようになり、チャンピオンシップ優勝&プレミアリーグ昇格の立役者の1人となり、開幕戦のゴールでプレミアリーグでも通用することを証明した。

 リーズは攻撃で眩い輝きを見せたものの、勝利の女神は彼らには微笑まなかった。試合は終了間際にリバプールにPKが与えられ。4-3でリーズは惜敗した。しかし、リーズの鮮烈な闘いぶりはあらゆるサッカーファンを熱狂させた。

「何て試合だ! とんでもない相手だった! 両チームのパフォーマンスがこんなに素晴らしいとは! 最高のフットボール! これこそスペクタクルだ! 大好きだ!」

 試合後、敵将クロップはカメラの前で興奮を隠せない様子で叫んだ。嵐のような攻撃でストーミングサッカーと評されたクロップのチームと、ビエルサ流の緻密な攻撃サッカーは見事にシンクロした。むしろ嵐を巻き起こしたのはリーズのほうだったといってもいいだろう。

<後編「ビエルサは「失敗のスペシャリスト」と言うが…アルゼンチン、日韓W杯早期敗退と濃い“裏話”」は下の関連コラムからご覧ください>

荒川友康(あらかわ・ゆうこう)

サッカー指導者。アルゼンチンで複数のチームや滝川第二高校での指導を経て、ジェフ千葉・育成コーチ、京都サンガ・トップチームコーチ、FC町田ゼルビアトップチームコーチなどを歴任。ビエルサのみならず、Jリーグでもアルディレスなどの名将の元で働く。アルゼンチンサッカー協会認定のS級ライセンスを所持。FCトレーロス所属。

関連記事

BACK 1 2 3 4 5 6
#マルセロ・ビエルサ
#カルバン・フィリップス
#リーズ
#ユルゲン・クロップ
#リバプール
#モハメド・サラー
#アリソン・ベッカー
#ビルヒル・ファンダイク

海外サッカーの前後の記事

ページトップ