“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
浅野拓磨が高校生90人に語ったこと。
「誰よりも自分に一番期待して」
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2020/06/10 11:30
新潟明訓高校のリモートミーティングにゲストとして招かれた浅野拓磨。自身の経験をもとに高校生たちへメッセージを送った。
成果ではなく、自分の成長に。
「これはどうしてもみんなに伝えたいことなのですが、自分の未来に、誰よりも自分が一番期待をしておいてほしいんです。海外に行った当初、アーセナルと4年契約してからドイツのクラブにレンタルをしたので『4年後は絶対にアーセナルでプレーする』と自分に期待していた。こっちに来て4年目ですが、今はベオグラードにいる。それって周りから見たら期待外れと思われるかもしれませんが、僕の中でこの4年間で得られた経験は大きな財産。その(時間の)おかげでパルチザン・ベオグラードの選手としてプレーできている。
では、次の4年後を考えた時に、ちょうど2年後にカタールW杯がある。行ける、行けないかはその時にならないと分からないし、もしかしたら行けない可能性の方が今は高いかもしれません。でも僕は100%行く気だし、本気で目指すことで成長できると確信している。成果に意識を向けるのではなく、自分の成長に対して目を向けてほしいなと思います」
数年後に突きつけられた現実が理想と違っても、自らに期待をして全力でやり続けたことはかけがえのない大きな財産となる。 経験をもとにした強烈なメッセージに対し、高校生たちは熱心にメモを取っていた。
高校生の質問に丁寧に答える浅野。
講演会では、質疑応答の時間も設けられた。現役の日本代表選手に質問できるとあって、多くの質問が飛び交った。
――スピードを最大限に活かすためには心がけていることは?
「昔から腕を振ることで、前への推進力を出しています。(サンフレッチェ)広島時代からずっとやっているのですが、腕立て伏せや背筋をしたあと、全力で10~20秒間その場でひたすら両腕を振る。腕を後ろに伸ばして持ってくる動きを全力でやると相当きついです」
――やりづらいと感じたGKの特徴とはなんでしょうか?
「嫌なのは足が出るGK。ゴロのシュートコースが消されてしまうんです。日本で入るシュートが海外ではなかなか入らない。「入った!」と思っても足が出てくるんです。あとは海外のGKはめちゃくちゃ跳びます。仮にゴールの枠に入ったとしても、どんなボールでも跳び付いてくるので、FWとしてはシュートを打つ時に圧を感じますね」
――嫌なDFはどんな選手ですか?
「この人、というのはないのですが、間合いを開けてくるDFは嫌ですね。特に僕がパスを受ける瞬間にあえて(間合い)開けてくる選手が相手だと、自分の特徴である裏への飛び出しも対応されやすくなる。距離があるから僕のアクションを見て動いてくるし、足元にボールを受けに行ったときも対応される。そこからターンをしても、バチッとくる。僕にとっては苦手なタイプです」
――食生活で気をつけていることはありますか?
「プロ入り後、広島で3年半寮生活をした大きな理由の1つとして、食事面があります。寮を出て1人暮らしすることもできたのですが、栄養バランスが取れたご飯がしっかりと3食提供され、サッカーに集中できる環境にいることにメリットを感じたんです。
それにドイツで怪我をした時に、改めて食事面の重要性を感じました。そこから専属の日本人シェフと契約して、ベオグラードでも毎日3食作ってもらっています。食事は成果をなかなか感じられないものですが、これが10年後の自分に差が出る。1、2年後の自分だけではなく、10年後の自分につながるという意識でやるしかないと思っています。
料理人をつけて1年半、セルビアリーグの試合数がかなり多いですが、ほとんどの試合でチーム内で1番走っています。前回のフィジカルテストとメディカルチェックはチーム内でトップの数値でした。これも食事の成果なのかなと思います」
――調子が悪い時、最初のプレーでミスをして落ちこんでしまうことがあります。そういう時に切り替えて、自分を良い方向に持っていく術はありますか?
「僕も同じタイプです(笑)。海外に行ってから特に感じるのは、外国人選手としてここにいるので、プレーの見られ方、評価のされ方が日本とは全然違う。味方の選手も監督も僕に対して集中的に(意見を)言ってきたりする。その時、僕はどう立て直すのか毎回考えています。
答えはないのですが、1つ言えることがあるとすれば、「日本代表でプレーして、Jリーグで活躍して海外でプレーしている選手もそうなんだ」と思ってプレーをすればいいと思います。要は「自分だけじゃない。プロでもそうなる」ということで少し気が楽になるのではないでしょうか。やっぱり試合でのメンタルは重要で、どれだけ自分が平常心に近い状態でプレーできるかだと思うんです。
FWとして考えているのは、シュートを外した後、「次のチャンスは絶対に決める」「決めてみんなを黙らせるぞ」ということ。終わったことは終わったこと。そんなこと1日経てば思い出だし、1年経てば忘れてしまっていることだってある。だから、見せ場が来た時に全力を出す自分を想像して、数少ないであろうチャンスに懸けてみるメンタリティーが大事だと思いますよ」