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サンウルブズが終わってしまった……。
公式カメラマンが見た不撓不屈の姿。 

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近藤篤

近藤篤Atsushi Kondo

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photograph byAtsushi Kondo

posted2020/06/10 20:00

サンウルブズが終わってしまった……。公式カメラマンが見た不撓不屈の姿。<Number Web> photograph by Atsushi Kondo

サンウルブズ最多のキャップ数43を誇る“バズ”こと浅原拓真。最も叩きのめされた男も、この知らせを寂しがった。

長谷川コーチ「頑張りましょう、ですよ」

 ある遠征先のホテルで、ファーストシーズンからサンウルブズに参加しているプロップの浅原拓真にそんな印象を冗談混じりで語ると、彼は僕にこう尋ねた(ちなみに浅原はサンウルブズでのキャップ数が最多の43、つまりチーム史上もっとも叩きのめされ続けた選手ということになる)。

「スリーハンドレッドって映画観たことあります?」

 ある。スパルタの屈強な300人の兵士が100万の軍勢を率いるペルシアのクセルクセス大王に挑み、最後は全員惨殺されるという映画だ。

「どっちかというと、あの感覚ですよ」

 映画の中のスパルタ人は一度惨殺されればヒーローとなって話は終わる。現実の世界に生きるサンウルブズのメンバーはボコボコにやられた翌日から再びトレーニングを開始し、次の週末にはまたしても100万の軍勢に挑み続けた。

 不撓不屈、そんなチームの姿勢に感動し、翌週のトレーニングが始まる前、スクラムコーチの長谷川慎さんに「頑張ってください!」と声をかけたら、「コンドーさん、頑張ってください、じゃなくて、頑張りましょう、ですよ」と優しく注意されたのも、今となってはいい思い出である。

 香港におけるストーマーズ戦、秩父宮ラグビー場における最終節のレッズ戦、感動的な勝ち試合もあったけれど、結局このシーズンもサンウルブズはわずか3勝、15チーム中15位でシーズンを終えた。

 9勝58敗1引き分け。これが5シーズンを通してサンウルブズがスーパーラグビーで残した数字である。よくもまあ、これだけ負けたものだと感心するくらいサンウルブズは負け続けた。

スーパーラグビーから吸収したもの。

 思うに、サンウルブズがスーパーラグビーから吸収した最たるものは、ラグビーの世界におけるありとあらゆる負けパターンを体験し、学習したことだったのかもしれない。

 ここでこういうパスミスをすれば、こうやられてしまう。ここでこういう判断ミスをすると、こうやられてしまう(そしてレフェリーの笛もサンウルブズにはきついものが多かった)。

 その何十もの負けパターンの蓄積が、結果的に負けないジャパン、劣勢からも押し返すことのできるジャパン、タフなジャパンを生み出したのではないだろうか。

 もちろんスーパーラグビーで戦うことで、個々の経験値や実力が飛躍的に伸びたのは今更語るまでもない。

 例えば昨年のW杯、ジャパンのロックとして地味に大仕事をやってのけたジェームス・ムーアは、2018年シーズン時点ではまだどこか甘えた感じのする若者にすぎなかった。始終どこかが痛いと訴え、トレーニングの手を抜き、食事制限を守れていないことは、下腹部にたっぷりとついた贅肉を見れば明らかだった。

 あの子はダメだよ、チーム関係者の何人かは呆れ顔で語っていた。そんなオージーの若者を、スーパーラグビーは本物のラガーマンに鍛え直し、ジャパンの躍進に欠かせない重要なパーツへと変貌させてくれた。

【次ページ】 サンウルブズを見られないなんて。

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