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夢の劇場で見たスコールズの一撃と、
「背番号22」から届いたメール。 

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島崎英純

島崎英純Hidezumi Shimazaki

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photograph byGetty Images

posted2020/04/20 20:00

夢の劇場で見たスコールズの一撃と、「背番号22」から届いたメール。<Number Web> photograph by Getty Images

赤い悪魔のセンターハーフと言えばスコールズ。マンチェスター・ユナイテッドファン以外ならずともその印象は強いだろう。

鉛色の曇り空のマンチェスター。

 ふとヨーロッパ取材を思い立ち、ドイツ、スペイン、ポルトガル、そしてイングランドのクラブを巡る旅に出て、マンチェスターへの渡航も計画した。

 それは、たぶんに無理のあるもので渡航費もかさんだが、それでもどうしても「オールド・トラッフォード」の姿をこの目に焼き付けたく、強行日程を組んでイングランド北部の産業都市へと向かった。

 満を持して、試合前日にロンドンのユーストン駅から約2時間半をかけて市内中心部のマンチェスター・ピカデリー駅へ着くと、空にはどんよりとした鉛色の雲が広がっていた。街には焦げ茶色の無骨な建築物が林立していて、1月の寒々とした風も相まって暗澹たる雰囲気を醸していたのを覚えている。

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 貧乏取材旅行だったから、中華街にあるテイクアウトの店で炒飯を買って、1人寂しくホテルの部屋で夕食を摂った。それでも備え付けのテレビに明日の試合情報が映るだけで胸が躍った。

 2012年1月14日、ホテルの窓越しに見た地面は濡れていた。小雨が降っているらしい。昼過ぎ、マンチェスター・ピカデリー駅からメトロリンク(路面電車)のオルトリナム駅行きの電車に乗って、スタジアムを目指した。

“夢の劇場”に入った瞬間の感動。

 この日のマッチメイクはユナイテッドvsボルトン・ワンダラーズだったが、プレミアリーグのゲームはホームサポーターとアウェーサポーターの動線が明確に分かれており、車内には赤いユニホームを着たホームサポーターの大群がひしめいていた。彼らが雪崩のように「オールド・トラッフォード駅」で下車するので、降り遅れる心配は無用だった。

 駅からスタジアムまでは一本道。通り沿いにはクラブカラーの赤い看板を立てたパブが建ち並び、試合3時間前からサポーターたちが談笑していた。

 フィッシュ・アンド・チップスやケバブを売る店を左手に見て道路標識を見上げると、そこには「SIR MATT BUSBY WAY」と書いてあった。言わずと知れたユナイテッドの伝説的指揮官の名を冠した道路の先に、ユナイテッドのホームが佇んでいた。

 イングランドのスタジアムは総じて無骨だ。レアル・マドリーのホーム、サンチャゴ・ベルナベウのような荘厳さは感じられないし、ザンクトパウリの本拠地、ミラントーア・シュタディオンのような退廃的な雰囲気もない。

 オールド・トラッフォードもご多分に漏れず、近代的でありながらも利便性を重視した作りで、初めて外観をこの目に収めても高揚感は沸き立たなかった。でも、スタジアムに入り、閉鎖的で薄暗いコンコースの切り立った壁の隙間から“あの”ピッチを見据えると、そこには文字通りの「シアター・オブ・ドリームス」が広がっていた。

【次ページ】 スコールズが再デビューした一戦。

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