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夢の劇場で見たスコールズの一撃と、
「背番号22」から届いたメール。
text by
島崎英純Hidezumi Shimazaki
photograph byGetty Images
posted2020/04/20 20:00
赤い悪魔のセンターハーフと言えばスコールズ。マンチェスター・ユナイテッドファン以外ならずともその印象は強いだろう。
スコールズが再デビューした一戦。
当時、日本人が在籍していなかったユナイテッドには明確な取材目的がなかったので、自身が加入するオフィシャルサポーターズクラブを通してチケットを購入した。その席はスタンドの上段だったが、何の不満もなかった。
ピッチからスタンド最前列までの距離が恐ろしく近いことは遠目から見てもはっきりと分かったし、何よりここに来られただけで幸せだった。
なお1995年1月25日、カントナがサイドライン際から暴言を吐いた相手サポーターにカンフーキックを浴びせた場所はここではなく、クリスタル・パレスの本拠地、ロンドンのセルハースト・パークだった。
この試合、僕としては聖地巡礼以外にも見どころがあった、2011年5月11日に現役を退きコーチとなっていたポール・スコールズが、約8カ月後の2012年1月8日に負傷者続出を受けて現役復帰。すでにFAカップのマンチェスター・シティ戦で“再デビュー”を果たしていたが、このボルトン戦はスタメン出場が濃厚となっていたのだ。
稀代の「ボックス・トゥ・ボックス」。
スコールズは稀代の「ボックス・トゥ・ボックス」プレーヤーだ。168cmと小柄ながら、無尽蔵のスタミナで自陣から敵陣までの広範囲をカバーする。
彼の凄みは、惚れ惚れするようなハイレベルなベーシック・テクニックにある。速射砲のように放たれる味方からのパワフルかつスピーディなパスを、卓越したトラップで受け止め、冷静沈着なルックアップで瞬時に状況を把握する。
そして、華麗さと実効性を兼ね備えたフィードパスは絶品の一言。キックスイングのフォームは一切の力みがなく、ムチのようにしなる右足でスパンとボールを弾き、そのボールはレーザービームの軌道を描いて味方選手の足元へ到達する。
クライマックスはバイタルエリアでボールを保持した瞬間。オールド・トラッフォードの四方を埋めたサポーターから唸るような「シューーーート」という掛け声が飛んだ刹那、針の穴を通す弾丸ショットが炸裂する。
そんなスコールズのプレーを、実際に体感できる。スタジアムアナウンスが彼の名前をコールした瞬間に、僕の心臓は激しく波打った。