プレミアリーグの時間BACK NUMBER
チェルシーの万能FWエイブラハム。
「背番号9の呪い」を解けるのか。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2020/02/11 20:00
大きくて巧くて速い。エイブラハムの活躍が、チェルシーの終盤戦の趨勢を決める。
ハッセルバインクと同じチャント。
移籍1年目からリーグ戦で23得点を挙げ、プレミア時代のクラブ歴代9番で唯一のリーグ得点王となったジミー・フロイド・ハッセルバインク(2000-04)に次ぐペースで重ねているゴールが、その証拠だ。
名前の語呂が合うこともあるが、サポーターから、「オー、タミー、タミー! タミー、タミー、タミー、タミー・エイブラハム!」という、ハッセルバインクと同じチャントで称えられてもいる。
ではハッセルバインクと同じように、エイブラハムは1シーズンに20点台の合計得点数を叩き出せるのだろうか? 純然たる得点源としてのプレッシャーにも耐えられるのか?
現時点での答えは「可能性大」である。
CFとしての能力は、欠けている要素を探す方が難しい。194cmの長身を生かした空中戦の強さはいうまでもなく、スリムに見えてもポストプレーでタメを作るフィジカルも十分。大柄だが足元のタッチは柔らかく、スピードも見た目以上に速く、ゴール前での嗅覚も鋭い。
今時のストライカーには前線からの守備も要求されるが、CBとしてチェルシーのアカデミーに入ったエイブラハムにとっては、それも自然なプレーの一環だ。
ウルブス戦の3得点に魅力が凝縮。
エイブラハムは長身を理由にCBだった少年時代から、ストライカー志向だった。U-11時代に転向したCFとしての魅力は、チェルシーで初めてハットトリックを達成した第5節ウォルバーハンプトン戦(5-2)の3ゴールに凝縮されている。
1点目はボックス内でルーズボールに反応し、左足のコントロールから素早いターンで右足シュート。反転して最初に視界に入る枠内右のスペースではなく、GKの反応を予期して左隅にゴールを決めた。
2点目は正確なヘディング。マークについていた相手DFの腕を瞬間的に引っ張り、その隙に手前に出てクロスにミートする狡猾さも見せた。
最後は、相手CBとぶつかり合いながらボックス内に侵入し、緩急のフェイントで振り切って対角線上に流し込むという、強さと巧さのゴールだった。また直前の2試合で、トップチーム初ゴールを含む2得点ずつを挙げるなど、勢いに乗っていたのだ。
その一方で、チームとしては3試合連続で勝ち星から遠ざかり、個人としても3戦連続無得点となった第25節レスター戦では、BBCの『マッチ・オブ・ザ・デー』で解説を務めたかつての名ストライカー、アラン・シアラーとイアン・ライトの両名から、オフ・ザ・ボールでの動きを改善点として指摘された。