プレミアリーグの時間BACK NUMBER
チェルシーの万能FWエイブラハム。
「背番号9の呪い」を解けるのか。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byGetty Images
posted2020/02/11 20:00
大きくて巧くて速い。エイブラハムの活躍が、チェルシーの終盤戦の趨勢を決める。
左足で打つ勇気を取り戻せるか。
ラストパスを予期して積極的に走り込んだり、相手DFと間合いを取るべく、エリア手前から少し下がってパスをもらいにいったりする動きだ。いずれも、前述のウルブズ戦で見せていた動きだが、経験を積むことにより、身体が自然と動く絶好調時ではなくても、意識して同レベルの動きができるようになっていくのだろう。
巷では、今季最多となる16回の“ビッグチャンス”を逃している事実を指摘する声もあるが、これは、それだけ絶好機にゴールを狙える場所にいたと解釈することもできる。首位を独走するリバプールの前線にいるロベルト・フィルミーノとサディオ・マネも1差の15回だ。ただし、いるべき時にいるべき所にいた仕事を無駄にしないためにも左足で打つ勇気は求められる。
いや、早急に取り戻す必要があると言うべきかもしれない。
ユース時代のエイブラハムは、左足でも決められるストライカーだった。それが今季はリーグ13得点に左足シュートが1本もない。
レスター戦での前半、右足アウトサイドで合わせ損なった右からのクロスには左足を出しているべきだった。数分後、スルーパスに反応してボックス内に走り込んだ場面でも素直に左足でシュートを狙っていれば、虚しいPKアピールに終わることなく、ネットを揺らせていたかもしれない。
「9番」としてビアリを思い出す。
シュート練習を重ねて左足の自信を取り戻すしかない。信頼してくれる指揮官は、自らも左右両刀を意識して居残り練習に精を出したクラブの歴代得点王だ。
アドバイスももらえるはずだ。実際、マウントが第3節ノリッジ戦(3-2)で決めた、2部でのレンタル時代も含む初のミドルシュートの裏には、エリアの外から打つ積極性を奨励したランパードの助言があった。
シュートのレパートリーが豊富な「チェルシー9番」と言えば、ジャンルカ・ビアリ(1996-99)を思い出す。
相手のマークを外す知的な動きといい、華麗なフィニッシュをはじめとする技術といい、ボールキープやヘディングに見られる強さといい、プレミア時代のチェルシーでは、過去最高の「背番号9」だったと思う。