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チェルシーの万能FWエイブラハム。
「背番号9の呪い」を解けるのか。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byGetty Images

posted2020/02/11 20:00

チェルシーの万能FWエイブラハム。「背番号9の呪い」を解けるのか。<Number Web> photograph by Getty Images

大きくて巧くて速い。エイブラハムの活躍が、チェルシーの終盤戦の趨勢を決める。

ジルー、バチュアイを差し置いて。

 より厳密に言えば、得点源としてエイブラハムに頼るギャンブルに打って出たわけだ。当人は、クラブの判断に決意を新たにしてもいる。

「チェルシーのようなクラブでプレーするのならプレッシャーは付き物。プレッシャーを感じるぐらいの方がいいし、やりがいがある」

 こうコメントしたのは、移籍市場が閉まって間もないレスター戦後のことだ。

 とはいえ残り4カ月間で背負うプレッシャーは、これまでの比ではない。プレシーズンを「またトライアルを受けているような気分」と表現したエイブラハムは、開幕からチャレンジャーの立場を続けている。ここまでのパフォーマンスは完全に期待以上。メディアには「歓迎すべき予想外」とも言われた。

 エイブラハムにとって最大のプレッシャーは、監督の期待と信頼に応えなければ……というものだったに違いない。ベテランのオリビエ・ジルーと、トップレベルでの経験では上手のミヒー・バチュアイを控えに回し、プレミア経験はチェルシーの短期間とスウォンジーでの1シーズンしかない自身を抜擢してくれたのだから。なお、今季から背負う9番も指揮官の意向で与えられたものだ。

「プレシーズン中から『チェルシーのメインストライカーになるんだ』という強い意志が感じられた。となれば、9番が当たり前の選択だ。周りから『ここでは、つけたがらない選手もいる番号だから』との忠告も受けたが、彼なら、背番号に伴うプレッシャーもエネルギーに変えられると思えた」

 このランパードの説明にもあるように、チェルシーの9番には「忌まわしい背番号」というプレッシャーも伴う。

クレスポ、トーレス、ファルカオ。

 2004-05シーズン、リーグ戦25試合で4得点に終わったマテヤ・ケズマンを皮切りに、昨季までの15年間、ほぼ毎年のように担い手が変わってきた。

 プレミアのフィジカルやスピード、チームスタイル、雨の多い憂鬱な天気など、理由が何であれ、9番は期待外れに終わった。その面々にはエルナン・クレスポ(2005-06)、フェルナンド・トーレス(2011-14)、ラダメル・ファルカオ(2015-16)といったビッグネームも含まれる。

 それどころか単なる空き番号として、CBハリド・ボラルーズ(2006-07)やMFスティーブ・シドウェル(2007-08)がつけていた時期まである。昨季後半のゴンサロ・イグアインも、リーグ戦14試合5得点と悪くない数字だが、プレースピードについていけない姿は、見るに堪えないものがあった。

 そんな中、エイブラハムは「チェルシー9番」としてのプレッシャーはすでに克服したと言える。

【次ページ】 ハッセルバインクと同じチャント。

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