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高原直泰・独占インタビュー(前編)。
「僕が沖縄でコーヒー豆をつくる理由」
 

text by

涌井健策(Number編集部)

涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui

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photograph byNanae Suzuki

posted2020/02/10 07:00

高原直泰・独占インタビュー(前編)。「僕が沖縄でコーヒー豆をつくる理由」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

高原直泰が沖縄でコーヒーを作りながらサッカーをしている。もう、この時点で興味を持たずにはいられない。

ジュビロにいた時の伝手を頼って。

 では、なぜ農業のなかでもコーヒー栽培を選択したのか。一般に沖縄にコーヒーのイメージはあまりなく、高原も当初は「沖縄でコーヒーをつくれるのか?」と疑問が浮かぶほど、まったく知識がなかったという。

「でも、偶然栽培している農家の方がいることを知って、漠然とハワイのコナコーヒーみたいにできたら面白いなと思ったんです。耕作放棄地を使って産業化できれば、沖縄の抱える問題の解決や地域創生にもつながるし、クラブの収入にもなるから、とても面白いんじゃないかなと。

 ただ、コーヒー豆をつくろうって思っても知識もないし、何から手をつけたらいいかわからなかったんです」

 そこで高原が声をかけたのが、世界的な食品飲料会社であるネスレだった。高原とネスレ、サッカーファンの中にはその関係性に気づく人もいるだろう。

「ぼくがジュビロにいたときの胸スポンサーだったじゃないですか。だから、コーヒーっていったらネスレでしょって(笑)。とりあえず話をきいてもらおうと思って、伝手を頼ったんです。

 自分たちだけじゃ絶対にコーヒーはできないし、金銭的なサポートだけじゃなく、技術的な指導もしてもらいたかったので。そこで『沖縄でこんなことがしたい』とお話をしたら、実はすでに世界的にコーヒー栽培の支援をしていることがわかったんです」

 それがネスレが2010年から取り組んでいる「ネスカフェ プラン」だ。気候変動による病気や収穫量の減少、栽培従事者不足など、特に小規模コーヒー農家を悩ませている問題に対してアクションをおこしていこうというもの。

 具体的には、環境に配慮したコーヒー豆の生産を手助けするために、農学者を派遣することによる技術支援や、品質の良い苗木を配布したりしている。これまでに世界17カ国、3万カ所以上の農園で、10万人以上の生産者をサポートしてきた。

 ただ、「ネスカフェ プラン」のプログラムはこれまで日本では実行されていなかった。ネスレの小原邦裕さんが語る。

「ネスレとしても、日本でどういったことができるのか探っていたんです。そこに高原さんに声をかけていただいた。耕作放棄地への問題意識を含めて、こちらとしても共感する部分が多かったんです」

「地域に根ざす」の本当の意味。

 高原も「偶然の一致だったんです」と振り返る。

「Jリーグの掲げる理念にも、地域に根ざした、という言葉があるじゃないですか。その言葉を掲げるのは簡単だと思うんです。何でも地域密着と言うことはできる。でも、単に言葉だけではなくて、長く続けていく活動にしていくためにはビジネスとしても成立させなければならないし、自分たちもやりがいを感じないといけない。

 そこまで考えたときに、コーヒーには沖縄の新しい特産物になる可能性があるって思ったんです。コーヒー自体、日本人もたくさん飲んでますし、中国でも猛烈に消費されていて、世界的にみたら需要に供給が追いついていないと聞きました。だったら、メイドイン沖縄の国産プレミアムコーヒーがあったら面白いなぁとネスレさんと話が一致したんです」

「沖縄SVコーヒーファーム」は、基本的に高原を含めた沖縄SVの選手・スタッフによって運営されている。植樹などのときは選手・スタッフ総出で作業するが、普段は1部の選手が担当スタッフとなって苗木の世話をしており、彼らの給与をネスレが支援しているというスキームだ。

 また、琉球大学の支援も受けている。農学部の施設を借り、教授のアドバイスも受けながら選手総出で種をまき、それを苗木に育てているのだ。

【次ページ】 まずは沖縄の土地で育つ品種探し。

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