JリーグPRESSBACK NUMBER
高原直泰・独占インタビュー(前編)。
「僕が沖縄でコーヒー豆をつくる理由」
posted2020/02/10 07:00
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph by
Nanae Suzuki
ゴム長靴が、似合っていた。
沖縄県名護市許田。沖縄自動車道の北端である許田ICを降りてすぐ、小高い丘を登った場所にその畑はあった。
「沖縄SVコーヒーファーム」
ADVERTISEMENT
高原直泰が代表取締役を務めるサッカークラブ・沖縄SV(エスファウ)が所有するコーヒー豆の畑だ。高原はクラブの代表であり、現役のプレーヤーでもあるため多忙な日々を送っているが、コーヒーの成長を見守るためにこの畑に頻繁に足を運んでいるという。
「長靴もいいやつ買っちゃいましたからね」
なぜ高原が沖縄でコーヒー豆をつくっているのか――。日に焼けた精悍な顔だけみていると多くの人を魅了してきたストライカーなのだが、クラブの経営やコーヒー栽培について、熱く、それでいて冷静に語る口調を聞いていると、そこにはサッカーファンの知らない、新しい高原直泰がいた。
静岡県出身の高原は沖縄に縁があったわけではない。2015年までJ3のSC相模原に所属。レンタルを含めて2シーズンプレーをした後、「声をかけられて」沖縄に移った。住民票も移して東京の家や車も処分し、沖縄でクラブを設立。南国で新たなサッカー人生を送っている。
勝って昇格するだけではちょっと違う。
「このクラブを立ち上げたときに、ただ自分がチームを作って、『Jリーグ入りを目指して頑張ります』だけでは、自分自身がやる意味がないなって思ったんですよ。もちろんJを目指してゼロから昇格していくことは大事なんですけど、それだけがメインの目標みたいになると、自分が思っていることとはちょっと違うかなって」
沖縄に移ることを決断した高原の胸中にあったのは、「恩返し」の思いだ。
「自分も年を重ねていて、いつかはサッカーを辞めなきゃいけない。でも、引退してから新しいことを始めるんじゃなくて、プレーしながら自分がサッカーで得たものをまわりに返していきたいと思ったんです。
だから、単に昇格を目指すのではなく、スポーツクラブとして地域に貢献していくものを生み出し、生み出す過程で参加する人が楽しんでくれたり、喜んでくれたりすればいいなと思ったんです」
そしてもうひとつのキーワードが「責任」だ。
「沖縄に来て、本当にゼロからのスタートになることはわかっていました。でも、だからこそ面白いなと思えた。自分自身の責任で、選手、監督、経営、やりたいことが全部できる。やっぱり他人が作った土台に自分の思いを乗っけるだけだと、ギャップが生まれてしまって自分が本当にやりたいことができないですから。いまは試合の成績にも、メンバーの行動にも、経営にも全部責任があるんです」