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氷との対話、9歳の自分との戦い──。
NHK杯圧勝、羽生結弦の理想とは?
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2019/11/25 20:00
総合305.05点で優勝した羽生。2位のケビン・エイモズに55.03点差をつける圧勝劇だった。
「もう1つの本番」を経験。
気負っている自分に気づくことが出来た羽生は、そのあと4回転ループを2度成功。感覚を掴んだように見えたが、残り1分を切った時に、「もう1つの本番」を経験した。
フリーのスタート位置からすべてトレースをなぞって滑り、ループを試みると、パンクして1回転になってしまった。プログラム通りに演技していくと、スピード感が変わったり、振り付けに引っ張られて重心がズレたりするのだ。
「曲の入り方だと、こういう間違いが出るというのを確認できたのが良かったと思います。練習でもまだ、4回転ループは百発百中で1発目にスタンッときまるものではないので、最後にやって良かったです」
パンクしたことで「練習でも1発目はミスすることが多い」と思いなおした羽生。こうして「緊張感のなかで跳ぶ感覚」と「曲で跳ぶ感覚」の2つを体験した。
「ある意味、本番前に本番を2回やれたのがよかったと思います」
そして本番では、見事に冒頭の4回転ループを片足で降りる。空中姿勢がやや斜めになったが、回転は十分だった。
羽生らしさの光る場面。
冒頭のループに続き、エッジ系である4回転サルコウも着氷。エッジ系のジャンプ2つを連続できたのは、氷との対話のなせる技だった。
「このプログラム自体に、ループがとべないという印象が強く付いてしまっていたので、何とか超えないと、という思いが強くありました。まぐれでも1回成功すれば、自信になるもの。大きな自信を得られました」
しかし後半にもう1度、羽生らしさの光る場面があった。それはスケートカナダで「1つの技での史上最高点20.90点」をマークした新技「4回転トウループ+オイラー(半回転ループ)+3回転フリップ」の場面。4回転がパンクして2回転になってしまったが、慌てずこう考えた。
「今回の課題は4回転ループとサルコウだったので(連続ジャンプは)すでに大きな得点源になることはスケートカナダで掴んでいますし、あとはNHK杯を楽しんでもいいかなと感じました。お客さんの前で『ここまで出来るんだぞ』というのをやっても良いかなと思いました」