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氷との対話、9歳の自分との戦い──。
NHK杯圧勝、羽生結弦の理想とは?
posted2019/11/25 20:00
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
Asami Enomoto
とうとう必要な武器をすべて手に入れた。
それがこの2019年NHK杯を総括する言葉だろう。すでにスケートカナダでは今季の世界最高点322.59点をマーク。王者奪還を目指すGPファイナルにむけて、試金石となるのが今回のNHK杯だった。
スケートカナダを終えた羽生結弦は、こう心理を分析していた。
「スケートカナダで今季の世界最高点を記録したことは、プレッシャーになります。めちゃくちゃ気持ち悪いです。でもスケートカナダでは、まだ出来ることがあるという状態での良かった得点。『良かったから次もっと頑張らないと』と考えてここまで来ました」
具体的な目標は、フリー冒頭の4回転ループと4回転サルコウをクリーンに成功させること、そしてケガをせずに試合を終えることだった。
「NHK杯は、『ここが最後じゃないぞ』という気持ちがすごくあって、GPファイナルに向けて、ループとサルコウが一番大事だと思い、注意して練習してきました」
段違いに難しい4回転の設定。
しかしループとサルコウの2種類を連続で成功させるというのは、実はほかの4回転に比べても段違いに難しい設定だった。
というのも、ループもサルコウもエッジ系のジャンプ。羽生はかねてから「エッジ系のジャンプは氷の状態に影響されやすい。トウ系は、一度降りられれば(フォームが)固まる」と話しているように、ループとサルコウは、試合当日の氷のコンディションに左右される。
「試合の一発で」という条件で考えれば、4回転ルッツやフリップよりもリスクの高い挑戦なのだ。
余談になるが、そんな理由もあって、実際に試合で4回転ループをコンスタントに入れているのは、羽生だけ。安定感が高い4回転フリップとルッツのほうが、今や挑戦者が多い。それでも羽生がループにこだわり続ける理由には、得点よりも、氷と対話しながら跳ぶ快感に魅了されているのだろう。