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中野友加里が紀平梨花の技術を解説。
トリプルアクセルのその先へ……。
posted2019/11/19 18:00
text by
中野友加里Yukari Nakano
photograph by
Asami Enomoto
初めまして。元フィギュアスケーターの中野友加里です。「ドーナツスピン」という言葉でピンとくる方もいらっしゃるでしょうか。世界で3人目のトリプルアクセル成功者、でもありますが、ジャンプよりスピンが得意だった「中野友加里」です。
さて、私が引退してからおよそ10年が経とうとしています。ひと言で言うとこの10年で大きく「フィギュアスケートの歴史は変わった」と感じています。
私の現役時代、男子は4回転ジャンプを構成しなくても勝つことができ、女子ではトリプルアクセルを除く3回転ジャンプを5種類しっかり決めれば上位進出は可能でした。しかし現在、男子では4回転の種類を求められ、女子では3回転+3回転を成功させる事は当たり前、男子のように高難度の4回転を跳ぶ選手が出てくるほどジャンプが進化しています。
さらに普通に「跳んだ」だけでは高評価には結びつかず、「質」が重要なポイントになっています。
そんな中、日本女子選手で際立っているのが紀平梨花選手です。
紀平選手といえばもちろんトリプルアクセルが代名詞。私もトリプルアクセルを跳んでいたからこそ、そのジャンプの難しさがわかるのです。
なぜ紀平選手は成功率が高いのか?
私は難しいと感じ過ぎてしまっていたせいか「さあ、跳びますよ! 跳びますよ!!」と構え過ぎていた感満載ですが、紀平選手はふわっとリズミカルにテンポよく跳んでいき、まるでステップをするかのようにスピードも落ちることなく跳び上がります。ジャンプも高さと特にジャンプ幅、ランディングの流れなど質の良さをうかがえます。
そして、特徴的なこととして……紀平選手はとにかく成功率が高いのです。
これはトリプルアクセルだけではなく全てのジャンプに当てはまる事ですが、彼女の高い成功率の一因は、その跳ぶ前の「軌道」にあると感じています。
特にトリプルアクセルなどの難しいジャンプだと、「回らなくては」という気持ちが強くなり、どうしてもジャンプの回転方向へ回り込みやすくなってしまいます。必要以上に回り込んでしまうと力で跳ばなくてはならなくなるため、回転不足や転倒につながりやすくなります。
ところが彼女の場合、そうならない。