「やっていい？」って合図してから。

　楽しむとは、つまり4回転トウループをリカバリーで跳ぶこと。そのためには助走を変えなくてはならない。つなぎで入れる予定だったイーグルを抜くと、ブライアン・オーサーコーチにチラッと視線を送る。

「ステップをちょっと抜いて、ブライアンの方を見て『やっていい？』って合図してから行きました」

　見事に「4回転トウループ+3回転」と「トリプルアクセル+半回転ループ+3回転サルコウ」を決めると、その心意気に観客からは大歓声が起きた。誰もまねできない偉業をやってのけたにも関わらず、羽生は笑ってこうコメントした。

「リカバリーはちょっとしたオマケです」

　あくまでもファンサービスといった様子。ファンと対話しながら滑ることが出来るのが、今の羽生の強さなのだろう。

　演技後には、4回転トウループをミスしたところを指さしながら、可愛いらしい仕草で悔しがる。またリンクからあがる直前にトウループの入り方をしつこく確認してみせる。そのたびに、会場から笑いが起きた。

GPファイナルは「勝つことに意味がある」。

　得点はフリー195.71点で、総合305.05点。GP連勝で、ファイナルへの進出を決めた。

「やっとGPファイナルで戦える位置まで来ました。ファイナルに向けて、気持ちが溜まっていたんで！」

　溜まっていたのは、2年分の気持ち。2017年はNHK杯の公式練習中にケガをして棄権しファイナル進出はならず、昨年はロシア杯でケガをしたためファイナルは欠場した。

「GPファイナル4連覇して、もっとあそこに君臨して居たいと思っていたのが、どんどん遠ざかっていた。最終的にネイサン・チェンに連覇されてしまい、奪還したい気持ちがあります。勝ちたいですね。勝つことに意味があると思っています」

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