プレミアリーグの時間BACK NUMBER
嫌われ者がイングランドの宝物へ。
スターリングの勢いが止まらない。
posted2019/09/21 11:40
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph by
Uniphoto Press
9月の英国では、EU離脱を巡る先行き不安のなかで、通貨のポンド・スターリングが、1985年以来となる対米ドル最安値を記録した。しかし代表がEURO2020予選Aグループで4戦4勝の首位に立って間もないイングランドでは、ラヒーム・スターリングの価値が過去最高に達している。
3年前の前回大会当時には自らファンの「嫌われ者」であることを認めていた代表FWが、母国の「宝物」として報じられるようになった。普段、大衆紙ではスポーツ面でも大袈裟なトーンが珍しくないが、今回は素直に頷ける。それほど、スターリングのパフォーマンスには目を見張るものがあるのだ。
9月10日、その3日前のブルガリア戦(4-0)に続き、コソボ戦(5-3)でも大量得点で勝利した後のガレス・サウスゲイト監督に言わせれば「DFの位置を的確に把握し、当たり負けもせず、クリエイティブな視野、そしてゴールへの執念とチームワークの精神を併せ持つ、相手にとっては手のつけられないストライカー」という具合だ。
“スターリング・ショー”だった。
試合前、最も注目されていた選手は今夏の移籍により世界一高額のDFとなったハリー・マグワイアだった。しかし、マンチェスター・ユナイテッドの新CBが最終ラインの要を務めたイングランドの守備陣は、守備的なブルガリアに何度か得点機を作られ、攻撃的なコソボには拙守で3点を献上。『サン』紙では滑稽な『マペット・ショー』に例えられる結果となった。
2試合で相手のオウンゴール1点を含む計9得点のFW陣においては、ブルガリア戦ではハットトリックを達成したハリー・ケインが、コソボ戦では代表初ゴールを含む2得点を決めたジェイドン・サンチョが、各紙のスポーツ1面を飾ることになった。だが、見開きのマッチレポートに目を通せば、いずれも“スターリング・ショー”だったことは明白。攻めあぐねたブルガリア戦の前半、包囲網突破を最も予感させたのも、実際に相手GKのフィードをカットしてケインの先制点をお膳立てしたのもスターリングだった。