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嫌われ者がイングランドの宝物へ。
スターリングの勢いが止まらない。
 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byUniphoto Press

posted2019/09/21 11:40

嫌われ者がイングランドの宝物へ。スターリングの勢いが止まらない。<Number Web> photograph by Uniphoto Press

弾けるようなスピードが魅力のスターリング。EURO2020予選では4試合6得点と4戦全勝のイングランドを牽引している。

人種差別撲滅への意欲を自身の言葉で語る。

 そんな環境でも意志の強さを見せるのが、やはりスターリングである。ピッチ上では、相手国側のスタンドから、差別的な野次を叫んで摘み出されたブルガリア人サポーターがいたとされるウェンブリーでの一戦でもゴールを決め、自らの足で雄弁に抗議を行ってみせる。

 ピッチ外では口数の少ないタイプでありながら、メディアやSNSを通じて屈しない決意と人種差別撲滅への意欲を自身の言葉で語っている。黙って耐えていた旧世代とは違い、差別問題に対するスポークスマンのようなスタンスを取るスターリングがいなければ、敵地で戦うブルガリアとのリターンマッチで再び差別的な行為を受けた場合、チーム内でプレー続行拒否による抗議が対応手段として検討されることはなかったに違いない。

 サッカーが庶民の日常生活の一部と化しているイングランドでは、有名スポーツ選手、とりわけ代表レベルの選手に「お手本」としての在り方が求められてきた。個人的には、子供の頃からサッカー一筋の精鋭に多くを求めすぎるような気もしているが……。

スターリングにも改善の余地がある。

 事実、期待が裏切られた例には事欠かない。つい先日も、ウェールズの元代表選手で、ストライカーとしてリバプールでクラブ史に名を残すゴールゲッターのイアン・ラッシュと2トップを組んだ経歴を持ち、引退後は解説者としてテレビに登場していたディーン・ソーンダースが、飲酒運転中に検査を拒否して実刑判決を受けている。大人も大人の55歳がこの有様なのだから、若い現役組に「公の人」としての自覚と責任感が欠けていても不思議はない。

 スターリングとて完璧ではない。そもそも選手として、まだ改善の余地がある。例えば、コソボ戦後半66分のプレー。相手選手5人に囲まれた袋小路に突っ込み強引にシュートを打った場面は、横にいたロス・バークリーへのパスが妥当な選択だっただろう。5-1のスコアで終えた前半は判断良く3度のアシストもこなしたが、ハーフタイムを境に2点差に詰め寄られたうえ、ケインが異例のPK失敗に終わった直後だっただけに、身につけていたはずのゴール前での冷静さを失ってしまったようだ。

【次ページ】 本当に「イングランドの国宝」が誕生する。

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#ラヒーム・スターリング

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