プレミアリーグの時間BACK NUMBER
嫌われ者がイングランドの宝物へ。
スターリングの勢いが止まらない。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byUniphoto Press
posted2019/09/21 11:40
弾けるようなスピードが魅力のスターリング。EURO2020予選では4試合6得点と4戦全勝のイングランドを牽引している。
「就任1年目はゴール前で弱気だった」
代表戦でも、初得点までにデビューから14試合を要し、2ゴール目から3ゴール目まで3年間のブランクがあった当時には、スターリングが1対1のチャンスを逃すと、母国のレポーターたちが、「またGKのシュート・ブロック練習だった」などと囁いていたものだ。
グアルディオラも「就任1年目に見たラヒームはゴール前で弱気だった。まず相手GKの位置を確認するのではなく、パスをする味方を探しているように見えた」と、かつてのスターリングについて言っている。
それが「失敗を気にせずゴールを狙え」と発破をかけられ、コーチのミケル・アルテタ監視下でシュート練習を繰り返した結果、自信満々で冷静沈着なフィニッシャーへと進化した。今季は、開幕前哨戦に当たるコミュニティ・シールドでセンターフォワードとして先発起用した指揮官の言葉を借りれば、チームを勝利に導くことのできる「ウィニング・プレーヤー」になったことになる。
3年前ならできなかった得点。
とはいえ、いかに監督が現役最高の呼び声も高い完璧主義者であっても、指導を受ける当人に向上心がなければ急激な成長など望めない。その点スターリングは、若くしてマンCで10億円を超す年俸を手にするレギュラーになっても、指揮官の指摘を受け入れてボールコントロールから改良に取り組んだという。
火がつけば、その得点意欲も非常に旺盛。ブルガリアから後半に奪ったチーム3点目は、必死に走りクロスを太腿で押し込んだ泥臭いゴールだった。コソボ戦でのチーム1点目は、CKの場面でケインを差し置いてゴール正面にポジションを取っていたからこそ決めることができた、代表キャリアで初のヘディングによる得点だった。いずれも3年前であれば、フィニッシュできる位置にいることすらなかったような得点シーンだ。
身長170cmぎりぎりのサイズは変わらない。しかし、ゴール前で放つ存在感の大きさは見違えるほど。以前はファンから「出っ尻」やら何やらとからかわれた独特なランニングスタイルも、今は「胸を張っている」と言われるようになった。ホームでの代表戦で観衆の拍手喝采を浴びることはあっても、理不尽な批判を浴びることなどなくなった。