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ムバッペにちぎられた昌子源の気骨。
「プライドは、ほぼゼロにしないと」 

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田中滋

田中滋Shigeru Tanaka

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posted2019/04/09 08:00

ムバッペにちぎられた昌子源の気骨。「プライドは、ほぼゼロにしないと」<Number Web> photograph by Getty Images

ムバッペのスピードに直面した昌子源。その経験ができるからこそ、フランスへと渡った価値がある。

スライディング1つでも違いが。

 昌子を追い詰めるのは日本と欧州のサッカー観の違いだ。鹿島でポジションを掴んだ頃、記者陣と雑談していたとき「欧州のDFってなんであんな簡単に滑るんですかね?」と疑問を呈したことがあった。

 メッシのドリブル集を見るとスライディングをひらりひらりとかわしていく。そのドリブル技術がすごいことはわかるが、DFがなんであんなに簡単に倒れてしまうのかがわからなかった。

「セルヒオ・ラモスとかジェラール・ピケとか、世界最高と言われるトップ10くらいに入るセンターバックのプレーに納得いってなかったんですよ。すぐスライディングするし、言うたら軽い。でも、それがたぶん日本人の考え方なんです。でも、こっちに来てわかりました。正対のディフェンスは無理なんです。正対してるだけだと好きなようにやられてしまう」

 思い当たる節があった。日本代表のチームメイトである酒井宏樹は信じられないくらい頻繁にスライディングを試みていた。鹿島に戻ってきた内田篤人も躊躇なくスライディングに行っていた。そして酒井はW杯の舞台でも、セネガルのサディオ・マネに対して何度もスライディングしていた。それに対して自分はマークするムベイェ・ニアングに正対することしかできず、このときもズルズルと下がるだけだった。

「ニアングはやりやすかったと思います。ずっと正対して付いてくるだけだから。でもヒロキくんはバーンって行っていた。だからマネもいらついてハセさん(長谷部誠)にファウルしたりしていた。そういうことかと、ようやくわかりました」

予備動作なく奪いにいく難しさ。

 ただ、スライディングに行こうと思ってもすぐに体は動かなかった。染みついたサッカー観をすぐに変えることはできなかった。

「サイドバックの人がやるようなスライディングを、センターバックがやるのはどうなんかと思ってたんですけど、こっちの人はガンガン行く。でも、なかなかできない。それは僕が日本で生まれて日本でサッカーをしてきたからできないんだと思うんです。それはなんでかって、見られ方が悪いのを知ってるから。自分でも『ああ、やってもうた』と思うプレーだから」

 ピンチを防ぐために体を投げ出すスライディングは今までもやってきた。しかし正対した状態から、いきなりバーンといくのはやったことがない。「さあ、いきます」とスライディングにいけば確実にかわされる。相手に読まれずに予備動作なく奪いにいく動きは、いまの昌子には非常に難しかった。

 だからこそ、これまでの守備のやり方を一度壊す必要があった。そして、なにもないところから這い上がるのは昌子の真骨頂でもある。

【次ページ】 「僕はこんなもんじゃない」

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