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レアル撃破の新生アヤックス。
浸透するクライフイズムと育成術。
posted2019/04/08 17:00
text by
中田徹Toru Nakata
photograph by
Mutsu Kawamori
3月5日、アヤックスが敵地サンティアゴ・ベルナベウでレアル・マドリーを4-1で破った。その劇的な勝利に、「歴史を記した」と最大級の賛辞で勝利を讃えた全国紙『アルヘメーン・ダッハブラット』をはじめ、オランダ中のメディアが沸き立った。
今季のアヤックスの予算は、CLベスト16に残ったチーム中、最低額の9000万ユーロ(約112億2800万円)。逆にレアル・マドリーは最高額の7億5090万ユーロ(約936億9730万円)の予算を誇っている。しかも、レアル・マドリーは昨季のCL王者。両者の対決は小人と巨人の戦いだった。
アムステルダムのヨハン・クライフ・アレナで行われた第1レグでアヤックスはドゥシャン・タディッチをストライカーのポジションに置く策がハマって攻勢に立つも、かなり微妙なVARの判定でゴールが取り消されるなど運がなく、1-2で敗れてしまった。この時、ほとんどのオランダ人は「ホームゲームを落としたら、さすがにアヤックスもここまでだな」と思っていた。
輝いたアヤックスの“個”。
ところが、アヤックスは第2レグで大番狂わせを演じただけでなく、レアル・マドリー陣内で果敢にプレッシングをかけて、ボールを奪い返してはショートカウンターを繰り出し続けた。こうしたチーム一丸となったハードワークに加えて、アヤックスは“個”の力も際立っていた。
中でも1ゴール2アシストを記録したタディッチのパフォーマンスは圧巻だった。チームの2点目につながったアシストのシーンでは、ジネディーヌ・ジダンの十八番“マルセイユ・ルーレット”で反転し、敵のマークを翻弄してFWダビド・ネレスにキラーパスを通した。
中盤ではフレンキー・デヨングの妙技と戦術眼が光った。相手の厳しいマークにあっても動じること無くボールをキープし、隙きあらば大胆にパスを前方へ通して攻撃の起点となるデヨングのプレーは華麗そのもの。フィジカルも強く、守備での貢献度も高かった。
チームとしての規律と共に、楽しさに満ち溢れたトリックやパスワークを披露したアヤックスは、実力でレアル・マドリーに勝ってしまったのだ。
あるオランダ人記者は、感極まったように「私が今まで見てきたオランダサッカーの中でも最高のゲーム」とツイートした。