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ムバッペにちぎられた昌子源の気骨。
「プライドは、ほぼゼロにしないと」
posted2019/04/09 08:00
text by
田中滋Shigeru Tanaka
photograph by
Getty Images
キリアン・ムバッペの速さは誰もが知るところだろうが、その足音を間近で聞いた人は少ない。
「なんか走ってくる音とかもすごいのよ。うわっ来てる! みたいなのがわかる」
近年、世界に衝撃を与え続けるフランスの快足FWと初対戦したトゥールーズの昌子源は、ちんちんにされた。
3月31日、ホームでのパリ・サンジェルマン(PSG)戦。最初のマッチアップは17分だった。昌子のフィードからPSG陣内に攻め込んだトゥールーズだったが、パスを奪われカウンターを受けてしまう。
センターライン付近でパスを受けたムバッペの前にいるのは昌子のみ。左サイド寄りの広いスペースがあるなかでの1対1が始まった。
「いま、シザースした?」「あ!」
「絶対に中に行かしたらダメと思ってました」
距離を取りつつカットインして右足のシュートだけはさせないように注意深く下がっていく。
「どっかでは行ったろ」
相手の隙をうかがいつつ下がるが、そのタイミングをつかめずにズルズルと下がってしまう。するとムバッペがスッとシザーズを入れた。
「いま、シザーズした?」
そう思って重心が左に寄った瞬間、縦に仕掛けられた。
「あ!」
思ったのも束の間、重心を崩されると手をつかなければピッチに突っ伏していた。幸い、シュートコースを限定したことでムバッペのシュートはニアサイドを突き、GKのバティスト・レネが弾いたボールもマクシム・シュポ・モティンがふかしてくれたおかげで失点は免れたが、ムバッペとの最初の勝負は完敗だった。
ただ、その後もずっとやられ続けたわけではない。手をつかされるという、DFにとって屈辱的な場面をつくられたが、そこに気持ちを奪われてしまってはもったいない。距離を空けてダメなら詰める。昌子は思いつく限りの対応で応戦した。
「次はいつムバッペとやれるかわからない。今回は出場したけれど、チャンピオンズリーグとの関係でパリがメンバーを落としてムバッペが出場しないかもしれないし、僕もメンバーに選ばれないかもしれない。この時間を無駄にしちゃいけないと思った」