欧州CL通信BACK NUMBER
奇跡の逆転劇で15年ぶりCL4強!
“香川後”も進化続けるドルトムント。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byBongarts/Getty Images
posted2013/04/10 13:25
後半48分に起死回生の逆転弾を決めたサンターナ(右)と、15年ぶりのベスト4進出を喜ぶドルトムントの選手たち。
ドルトムント時代に香川が語ったアウェイでの“弱み”。
昨シーズン、ドイツ国内ではリーグとカップの2冠を達成したドルトムントだが、CLではアーセナル、マルセイユ、オリンピアコスと同居したグループステージで最下位に沈んだ。屈辱だった。
一昨シーズンに挑んだ、ヨーロッパリーグでの戦いを振り返ってもいい。このシーズン、ドルトムントは序盤戦からブンデスリーガで独走したのだが、CLよりもレベルの劣るELのグループステージで3位に終わり、決勝トーナメント進出さえかなわなかった。
国内リーグでの戦いで自信をつかんだ彼らは、同じような戦いをELはもちろん、欧州最高峰の舞台であるCLでも披露しようとしていたのだ。
だが、それが無謀だったことは明らかだった。
どんな舞台でも自らのスタイルを貫くことができるのは、世界広しといえども、バルセロナなど一握りのチームだけだ。昨シーズンの後半戦、ブンデスリーガで連勝街道を突き進んでいたとき(昨シーズンの後半戦は公式戦で一度も負けていない)、当時所属していた香川真司もこう話していた。
「アウェイでも僕たちは無謀にも勝ちに行ったり、戦い方を間違えていたよ。冷静さを失ったりしてね」
アウェイでも、ふだん通りのサッカーをしようとした結果、昨季のCLではアウェイで3戦全敗だった。
クロップ監督はそんな苦い経験を踏まえ、高い位置からプレスをかけていく「gegen-pressing」を諦め、全体で引いて守備ブロックを作ってボールを奪い、そこからカウンターをしかけていくサッカーを目指したのだ。
ロイスの加入でリアクション型のサッカーが可能に。
端的に言えば、昨季までは相手から時間とスペースを奪うことに力を注いでいた。
一方、今季からは相手に時間とスペースを与えることにした。そのうえで、相手を自陣におびき寄せて、ボールを奪ってから素早く前に攻めていくのだ。
その成果はボール支配率に如実に表れている。今回のCLでのドルトムントの平均ボール支配率は47%で、これは参加32チーム中22位タイだ。相手に時間とスペースを与えてきた“成果”である。
そんなサッカーが実を結びつつある要因には、昨季と今季のメンバーの違いも大きい。具体的には、マンチェスター・ユナイテッドに移籍した香川に代わり、今季から加入したロイスがレギュラーとなったことだ。
クロップ監督は、昨季との違いをこう語る。
「香川真司は機動性があった。一方、マルコ・ロイスのスピードが大きな助けになる」
昨シーズン、チームで2番目に多くのゴールを決める一方で、チームのアシスト王だった香川は、ゲームを組み立てる力や、相手陣内でボールを奪ってから狭いスペースに飛び込みゴールを決める力に秀でていた。
それに対し、ロイスはカウンター時に有効なスピードと、シュートレンジの広さとキックの精度で香川を上回る。
どちらも一長一短ではあるが、今シーズンのリアクション型のサッカーをする上ではロイスのほうが都合がよいのだ。もちろん、そうしたサッカーをしたいからロイスを獲得したともいえるのだが……。ちなみに、相手に時間とスペースを与え、攻めさせてからカウンターを狙うサッカーだったからこそ、「死のグループ」で同居したレアル・マドリー、マンチェスター・シティ、アヤックスといった強豪との対戦では逆にその良さを発揮できたと言える。グループリーグを首位で通過できたのも、それとは無縁ではないだろう。
そのようにして、CLで勝ち上がるために念入りに準備してきたクロップ監督とドルトムントにとって、彼らの底力を試されるのがこの試合だった。