甲子園の風BACK NUMBER
「白米たくさん食べろ…球児は苦痛」「日曜休みで顧問たちが元気に」“高校野球の当たり前”を疑って甲子園…公立校のトレーニング改革全事実
text by
間淳Jun Aida
photograph byJun Aida
posted2024/10/13 06:01
2024年夏の甲子園出場を果たした掛川西高校。監督に“練習や1週間の過ごし方”を聞くと、高校野球の当たり前を変えたものだった
掛川西の土曜日は始動が早い。朝6時45分から練習をスタートし、お昼ご飯を挟んで午後2時頃には終了する。つまり、土曜日の夕方から月曜日の朝まで、1日半が自由時間になるのだ。
この大胆な改革で、最初に効果が表れたのは、実は顧問たちだった。大石監督はこう振り返る。
「監督の自分と違って、他の顧問の先生方は私の考えや予定に振り回される部分があります。顧問は全員、家庭を持っています。日曜日を休日にしたことでご家族と過ごす時間を取れて元気が回復し、良い顔で月曜日に学校へ来るようになりました。平日に無理なお願いをしやすくなりましたね(笑)」
全国の強豪校にも劣らないフィジカル数値に
さらに、選手たちの表情や動きにも変化が生まれた。
シーズンオフの期間は木曜日の練習を軽くしていたため、「月火水の3日間」と「金土の2日間」で力を出し切る意識が浸透していった。特に、土曜日の動きは日曜日を見据えて練習していた頃と比べて見違えるほど良くなったという。
量より質の方針は数字にも表れた。
フィジカルの数値がチーム史上最高を記録したのだ。掛川西では毎年、選手の入学時から筋力、柔軟性、瞬発力などを年に3回測定している。今夏に甲子園に出場したチームは選手全員の平均値が、大石監督が就任した2018年以降で最も伸びた。
この数値は全国の強豪校でも測定されており、平均値がランキングになっている。全国1位は埼玉県の浦和学院。掛川西は県内でトップ、全国でも4位だった。客観的な数字は選手が自信を持つ1つの根拠になったと大石監督は実感している。
「私たちのチームは秋も春も結果を出せませんでした。周りの人たちは夏も勝てないと思っていたはずです。でも、選手たちは甲子園で戦えるだけのベースができていると考えていました。その自信が相手チームの名前や体格にひるまず、劣勢でも自分たちを見失わない戦い方につながったと感じています」
「日曜休みがイコールではない」一方で、集中力は
大石監督は「数値が上がったのは選手たちの頑張りなので、日曜日を休みにしたこととイコールではないと思います」とも付け加える。ただ、練習に対する集中力は確実に上がり、チームに元気や活気が生まれたという。
チーム力は練習時間に比例して上がるとは限らない。むしろ、長時間練習は集中力やモチベーションを下げ、逆効果となる可能性もある。
冬のトレーニング内容は例年と大きく変えていない。変えたのは日曜日を休日にしたことだけだった。
「休みは心も体も元気になります。社会人も休日の前日は仕事を頑張れますよね」
大石監督はこうも語り、固定観念を打ち破った方針変更に手応えを感じた。
一方、私立の強豪校には追いつけない限界も痛感した。<つづく>