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朝6時から「1日1000スイング」「連帯責任の根性練」まで…夏の甲子園「わずか16勝」だった新潟の代表校が15年前“夏の主役”になった納得の理由 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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posted2024/08/22 06:00

朝6時から「1日1000スイング」「連帯責任の根性練」まで…夏の甲子園「わずか16勝」だった新潟の代表校が15年前“夏の主役”になった納得の理由<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2009年、夏の甲子園決勝で中京大中京を相手に「世紀の追い上げ」を見せた日本文理ナイン。そこにいたる経緯はどんなものだったのか

 はじまりは前年秋の北信越大会だった。

 大会開幕直前の10月6日。大井の妻が他界した。チームを動揺させまいと監督は伏せていたが、新聞記事で知った選手たちが「監督のために」と奮起。さらに、コーチである鈴木崇が「監督と奥さんを絶対に甲子園に連れて行くぞ!」と大号令を掛けたことによって、日本文理のボルテージが一気に高まった。

 とりわけ富山商との決勝戦は、選手たちが「ヤバかった」と唸るほど神がかっていた。

 8回表終了時点で3-7。北信越のセンバツ一般選考枠は2校のため、決勝に進出すればひとまず「当確」ランプが灯る。しかし、準決勝で新潟商が富山商を相手に1-2と善戦していたことから、もしこのままのスコアで負けてしまえば、そのランプは一転、危険信号に変わりかねなかったのである。

 力をください――選手たちが空を見上げる。

 野球は2アウトから。

 古くから伝わる格言が体現されたのは、日本文理の攻撃となる8回裏だった。

 1年生の高橋隼之介がミスショットだと落胆したフライが風に流されヒットになると、一気呵成とばかりに猛追する。1点差まで詰め寄りなおも二、三塁のチャンスで、武石光司のライナーがショートのグラブをかすめるヒットとなり逆転に成功。6安打3四球と打線が爆発して7得点を挙げた日本文理が、10-7の大逆転劇によって優勝を決めたのである。

「あんな力がある子たちじゃないんだよ」

 大一番での結束に、大井が感謝を口にする。

「信じられない力で戦ってくれたよね。あんな力がある子たちじゃないんだよ、本当は。それが、『監督と奥さんを甲子園に!』ってひとつにまとまってくれてさ」

 監督も認めるほどのポテンシャルは、むしろ弱さを突きつけられてこそ発揮された。

 09年のセンバツ。初戦で「プロ注目」の今村猛(広島→引退)を擁する清峰と対戦し、0-4で敗れた。この大会で優勝するチームのエースから7安打を放ったことはチームの自信となったが、12個の三振が象徴するように、好投手となると得点圏にランナーを置いても1点を奪えぬ勝負弱さが浮き彫りとなった。

【次ページ】 センバツ→東北遠征で大敗後の壮絶な「根性練習」

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