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「私は生理をどれだけ知っているだろう」元五輪スイマーが、男性スポーツ指導者に伝えたいこと「“わからない”のは悪いことではないのです」
text by
伊藤華英Hanae Ito
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2023/10/31 11:02
ロンドン五輪での伊藤華英さん
「どうして飲まなきゃいけないの? だって、ピルって避妊をするためのものだし、そもそも薬でしょう?」
当時の私の知識は、自分の月経周期がわかっているくらい。いつ排卵するのか、ましてや黄体期、卵胞期といったことなどまったく知りませんでした。アスリートに限った話ではなく、そもそも日本ではピルの服用率自体も2.9%と多くない。同じように、ピル=避妊薬だと考える人も少なくないでしょう。
日頃から身近にいるコーチに相談できるかどうか
ピルに限らず、知っているつもりになっていることはまだまだあります。たとえば生理用品もその一つ。運動中はナプキンがいいのか、タンポンがいいのか。
ジャンプする動きや、スライディングなど咄嗟の動きが含まれるバスケットボールやサッカーなどの競技は、ウェア自体に余裕があってショーツラインは見えません。しかし、同じ球技でもバレーボールはウェア自体が身体にフィットするタイプが多く、ショーツラインが出ないように気にかける必要があります。体操競技やフィギュアスケートなども同様です。
吸水性やフィット感、替えやすさを考えるとナプキンにしたい気持ちはある。ですが、生理以外の時はTバックのショーツなどラインが出ないものを着ている場合もあります。ナプキンをつけてしまうとウェアから見えてしまうかもしれない、と競技以外のことにも気を配ることになります。
それ以外にも、長時間の練習でトイレへ行く時間自体も限られてしまえば、経血の漏れも気になる、と悩む気持ちもよくわかります。
では、そのような相談を、日頃から身近にいるコーチにできるか、といえばどうでしょう。「できません」と答える人が多いのではないでしょうか。おそらく生理のために病院に行く、身近なコーチや医師に相談をするという発想はなく、「なんとなくだるいな」「しんどいな」と思っても、自分で何とかするしかないし我慢するしかないと思っている。それらは全部仕方のないことであり、生理があるなら普通のことだと受け入れている……そのような人も多いかもしれません。
男性が「わからない」ことを当たり前のこととして
それから、生理のことはどこか個人的な話であり、人前で話してはいけないような雰囲気もありますよね。筋肉の張りや関節の軋きしみがあれば隠さず言えるのに、生理に関して「お腹が痛い」「身体が重い」と誰に伝えてよいかもわからない。言ったところで「そんなことを言われても」と周りを困らせてしまうだけという心配もわかります。
「相談できない」という問題の他に、現時点でスポーツの現場ではまだまだ圧倒的に男性指導者が多いということがあります。