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「生理の知識が少なく、十分な準備もせず」今も悔やむ“五輪直前のピル服用”「アスリートとしてのピーク」だった元スイマー伊藤華英の回想
posted2023/10/31 11:01
text by
伊藤華英Hanae Ito
photograph by
Takuya Sugiyama/JMPA
オリンピック本番へ向けた練習が続く中、生理という不安な要素を残したくなかった私は、コーチとドクターに相談しました。競技日程はわかっているので、そこから逆算して、生理を早めるか、遅らせるか。
ピル服用が逆に副作用に苦しむことになってしまった
さまざまな状況を考えた末、中用量ピルを服用して生理が大会後に来るように月経周期をコントロールしよう、という決断に至りました。
私はただ「生理をオリンピック本番とずらしたい」という思いで、迫り来る日程もあるため、急いでピルを服用しました。それだけで心身共に楽になり、オリンピックでも自分の力が発揮できると思っていたのです。
結果はどうなったか。
望んだ効果ではなく、逆に副作用に苦しむことになってしまったのです。
身体全体がむくんだ感じで、特にお腹が膨らんでいる感覚が消えない。水をとらえようとつかもうとしても、つかめる感覚がない。針に糸を通すような、正確で狂いのない感覚を突き詰めてきたはずなのですが、求めた感覚からどんどん遠ざかっていく。緊張のため食事の量も減る中、練習は変わらずに続けていましたが、体重は4~5キロも増えてしまった。
とても万全とは言えない状態でしたが、オリンピック本番は刻一刻と迫ってきます。
そして大会当日。どうにか今までの感覚を思い出し、自分のベストを尽くすことだけを考えました。今この身体で「やれることをやるしかない」、と言い聞かせながら泳ぎました。結果は冒頭でお伝えした通り、100メートル背泳ぎは8位、200メートル背泳ぎは準決勝敗退――。
競技人生の中で一番勝負をかけていた北京オリンピック。少しでも後悔を残さないように、と悩んだ末の決断でしたが、望んでいたものとは程遠い結果になってしまいました。
後悔は“十分な知識もないまま”服用したこと
ただ、誤解しないでほしいです。
私の後悔は、中用量ピルを服用したことではありません。