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甲子園「幻の3連覇」あの香田誉士史は今…北海道で駒大苫小牧、社会人野球を“やはり強くした”本人が語る「西部ガス監督は最後」の決断
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byKei Nakamura
posted2023/09/28 11:02
現在、社会人野球・西部ガスの監督を務める香田誉士史。今秋の日本選手権を最後に同チームの監督から退くことを明かした
香田 ほんと、隙がないんだよ。強いチームは。高校野球だと、メンタルの持っていき方で力の差があっても乗り越えられるときがあるんだけど、社会人野球は正真正銘の「力対力」。あと、都市対抗でいうと、補強選手の起用法に最後まで慣れなかった感じはあるね。
高校野球にはない「補強制度」
――あの制度は、知らない人からすると不思議ですよね。都市対抗の代表権を得ると、敗れた同地区のチームから3人以内、選手を補強することができる。都市対抗の理念が「地域対地域」の戦いだからなんでしょうけど、Hondaが優勝しても「南関東」が勝ったとか「狭山市」が勝ったとは言いませんもんね。
香田 補強選手を入れると、よくも悪くも、やっぱりチームって雰囲気が変わるんだよ。それをいい方に導いたチームが結局、勝つ。ただ、戦力であると同時に、どこかお客さんでもあるわけよ。ケガさせてもいけないし、それなりのところで使ってやりたいなとも思う。活躍することが前提できている補強選手も大変だしね。でも、そういうことをいろいろ考えてしまうこと自体、チームとしてはどうなのかなというのもあるじゃない。そこはおれが考え過ぎちゃったところがあったな。だから、補強制度のない日本選手権の方がしっくりくるところはあるんだよね。
選手に引退勧告は「もっとも嫌な仕事」
――駒大苫小牧時代は香田さんが練習でも試合でも先頭に立って、声を出して、体を張って、引っ張っている感じがしました。ただ、西部ガス時代は一転して、ノックなどもコーチに任せるし、前に出過ぎないようにしていましたよね。
香田 うちは今、ピッチングコーチと、野手総合コーチの2人がいるからね。コーチの存在感と監督の存在感と、両方維持するには、監督が一歩引いているぐらいでちょうどいいんだよ。選手もその方がいいって絶対、思ってる。コーチも自分の考え方は、本当によく理解してくれてるからね。いろんな形を試したけど、今はこの形がベスト。チーム自体もいちばんいいもん。
――今、部員は何名なのですか。
香田 25名。最大で25名なので、新人を2名獲ったら2名辞めさせなきゃいけないし、3名獲ったら3名引退させなきゃならない。そこも社会人野球にしかない制度だよね。1年の中で、もっとも嫌な仕事。でも、やらなきゃいけない仕事。だから今シーズンも、そこまでがおれの仕事になる。最後の仕事だな。ただ、プロと違って、選手は会社には残れるから。野球という部署は終わりな、っていう考え方なんだよ。
〈つづく/「伝説的名将・香田誉士史は今年の甲子園をどう見たか?」編〉